火曜日の幻想譚
37.とりあえず死んどこう
「ふぅー」
仕事から帰ってきて一息つく。ここんところやたらと忙しかった。
「かなり大変だったし、とりあえず二週間ほど死んでおくかな」
書置きを残し、緩めたネクタイを再び力を込めて締める。さっきと違うのは、頸に食い込むほどの力でそれを行うことだ。
「ママー。パパがまた動かなくなってるー」
「あー、パパ疲れてたからねー」
「でも、明日遊園地に連れてってくれるって約束したんだよー」
「あ、そうだった。あの人またすっぽかして」
気持ちよく死んでいると、誰かに強制的に蘇生させられる。
「パパー。明日遊園地って約束したじゃーん!」
「あなた。約束破って死ぬのはやめてくださいね」
「そうだった。忘れてたよ」
頭をかきながら、弁明にならない弁明をする。死ねるようになったのは嬉しいんだけれど。嫁が元聖職者なのは考えもんだよなぁ。
あーあ、もっと楽に死ねるようになりたいなあ。