火曜日の幻想譚
38.ひつじの機転
あるぼくじょうに、一匹のひつじがいました。
そのひつじは、ほかのどのひつじよりもたくさん草を食べるので、まるまると太っていました。ですが、あまり毛がのびないのがけってんでした。よく食べるのに毛がとれないので、ひつじかいのおじさんはおもしろくありません。おじさんはこのひつじのあつかいにこまって、
「いっそのこと、お肉にしてしまおうかなあ」
といつもつぶやいているのでした。
あるときのこと。このぼくじょうを、さむさのきびしい冬がおそいました。すっかり毛をかられてしまったひつじたちは、ぶるぶるふるえています。太ったひつじの毛はあまりのびないので、かられずにのこっていました。それに、まるまると太っているので、さわるとあたたかいのです。なにかできることはないかとかんがえた太ったひつじは、ほかのひつじたちに言いました。
「みんな、ぼくのところにおいで。おしくらまんじゅうをしよう」
ほかのひつじたちは、太ったひつじがあたたかそうなので、みんなあつまりました。そして、おしくらまんじゅうをすることで、きびしい冬をどうにかのりこえたのです。
ひつじかいのおじさんは、それをみて言いました。
「あの太ったひつじにもいいところがあるんだなあ。お肉にしなくてよかったなあ」