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火曜日の幻想譚

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39.彼の意図



 初デートで、彼は股間のファスナーを全開にしていた。感じの良い人だったので、デートをOKしたのだけど……。他人のふりをして帰ろうとしたその時、私の頭の中で何かがささやいた。これは何らかの意図があるのではないか、と。

 というわけで、ファスナーが開いている彼とデートすることにした。


 だが彼は、ドライブの間もずっと社会の窓を全開にしている。その下の、黒のボクサーパンツまでちらちらと見えている。……どうしても、視線がそこに引き付けられてしまう。その時、私は彼の意図がわかった気がした。
 そうだ。きっと彼は、わざとファスナーを開けることで私の視線を見てるんだ。私が、股間ばかりをじろじろ見るようなはしたない女かどうか、チェックしているに違いない。
 危ない、危ない。私は慌てて、彼の股間から目をそらす。もう少しで、彼の術中にハマってしまうところだった。
 そうして、なるべく彼の股間を気にせずにデートを終えた。別れ際、さすがに何も言わないのはどうかと思い、彼にファスナーが開いてることを指摘した。

「あぁ、これ?」
彼はすべてを了解している様子で自分の股間を見ると、私に小声で言った。
「君にだけ恥ずかしい思いをさせるわけには、いかないからね」
何のことかと見回してみると、パンツにスカートが思いっきり挟まっていた。
 泣きたくなるほど恥ずかしかった。そうじゃないだろと、言いたかった。でも、とりあえず彼の優しさはよくわかった。

 そんな私たちが、なんとか結婚にこぎつけたのは、この数年後のことだった。


作品名:火曜日の幻想譚 作家名:六色塔