火曜日の幻想譚
41.まちがいさがし
はい。この中にいくつか間違いがあります。どうぞ、探してみてください。
はい、どうぞ。
「中3の時、第一志望の高校受験の前日まんがを読み返してしまったこと」ですか? はい。一つ目正解です。この日、しっかり勉強していたら数学が6点、理科が4点、国語12点多く取れました。それにより合格点に3点届き、無事第一志望の高校に入学できたことになります。
はい。次、どうぞ。
「幼稚園の時、さくら組で一番可愛かったユリちゃんにちょっかいをかけて嫌われてしまったこと」? 惜しいですね。間違いです。実は、ユリちゃんはあなたに好意を持っていたのです。なので、ちょっかいをかけた後も嫌われたと早合点せず、仲良くし続けていれば中学生ごろまではおつきあいできたと思います。中学生でユリちゃんは、憧れの先輩に告白されるので、どちらにしてもそれまでですけどね。ですので、一応二つ目は「ユリちゃんにちょっかいをかけるのを止めてしまったこと」です。
はい、複雑な表情してないで、次どうぞ。
え? 「中学2年の夏休みに、ベッドの下の物を母に見つかったこと」ですか? うーん。間違いと言えば間違いですが……、それほど大きな影響はありませんよ。お母さんも思春期の男の子によくあることとして数日で忘れてますし、特に家族会議にも発展していません。強いてあげればあなたの心の傷ですが、あの書物が見つかったことによって、この後何かの障害になったような形跡はありませんね。
まだ見つかりそうですか?
「今の会社に就職したこと」ですね。これも正解と言えば正解ですけど、正直あなたが志望していた他の会社も似たり寄ったりなんですよ。あなた、就活で3社希望していたと思うんですが、うち一社は入って半年で厳しさのあまり辞めることになります。その後別の会社に再就職し、そこで今の年まで働くことになりますが、薄給で悩むことになっていたでしょうね。もう一つの会社は、給与は一番高いのですが昇給がない上に激務なので、心身ともに疲労した状況で通帳の数字だけ見てにやけるような人生が待っていました。今の会社は、給与も忙しさもその両社の間くらいですが、組織が硬直して何をやるにも窮屈ですよね。なので、ここは正解ですけど、難しいところですね。
さあ、あらかた間違いは見つかりました。間違っていない訂正したほうの人生を見てどう思いますか? 今と大して変わらない?
そうなんです。あなたの人生を疑うのがそもそものまちがいなんですよ。