火曜日の幻想譚
42.観瀑台の謀略
旅行先に観瀑台があるので、妻と訪れることにした。
観瀑台というのは、いわゆる展望台の滝版である。滝の向かいに設置され、ダイナミックな瀑布を手に取るように眺められる施設だ。実はこの観瀑台を訪れたのには、理由がある。ここの観瀑台には、ほとんど公にされていないサービスがあり、私はそれを目当てにやってきたのだ。
そのサービスとは、巨額を支払えば人が滝から落ちる様を見られるというものである。その仕組みは以下のようになっている。まず、観瀑台側から、滝の上に担当者に「人を落とせ」と合図を送る。合図を受けた担当者は、制限時間内にそこらの人を一人、無理にでも滝へと落とさなければならない。周囲に人がいなくて誰も落とせないのなら、その担当者が自ら滝へと落ちなければならない。私は、このサービスを利用して長年不仲だった妻を亡き者にしようと考え、遠路遥々足を運んだのだ。
地元の人々は、皆下手すれば滝へと突き落とされることを知っているので、近寄ることはしない。ならば、適当な理由をつけて何も知らぬ妻を滝の頂上付近に居させておけば、担当者は滝から落とすに違いない。
私は長年かけて貯めた金を払い、サービスを依頼した。そして、設置してある望遠鏡をのぞき込み、その瞬間を今か今かと待ち続ける。程なくして、一人の女が頭から滝つぼへと落下していくのが見えた。その女の衣服が、今日の妻の衣装と同じであったことを確認した私は、その場を立ち去った。
それから、旅行先で数日のんびりし、誰も居ない家に戻る。扉を開け居間に入ろうとすると、包帯まみれの人間が立ち塞がった。
「ねえ。滝から落ちたら、絶対に死ぬと思った?」
その言葉と握りしめている包丁で、誰かを察した私は、逃げる気力もなくその場にくずおれた。