火曜日の幻想譚
113.2位
2位になりたい。
1位というものはつらすぎる。先を行く者のいない不安さ、常に追われる者であるというプレッシャー。喜びももちろん大きいが、その分重圧もとてつもなく大きいのだ。
じゃあ、2位が全てにおいて楽かといえば無論そうではない。1位になれない悔しさがあるし、1位と同様、大半の者に追われるという立場なのも変わらない。
だが、それでも2位でいたい。自分には、1位の重圧も喜びも大きすぎる。過度な喜びというのもおかしな表現だが、おそらく自分は2位が最もちょうどいい幸せなんじゃないかと思う。
というわけで、争いごとは常に2位を目指して生活することにした。
まずは勉強だ。僕はライバルである赤井さんに1位を譲り、2位に甘んじることにする。赤井さんは上機嫌だが、それ以上に僕の機嫌もすこぶるいい。
運動でも同様だ。徒競走でも障害物競走でもリレーでも走り幅跳びでも、何でも目指すは2位だ。なかなか難しいこともあるが、やはり勝者はうれしそうだ。そんな彼らを横目に見ながら、2位を取れたうれしさを、僕はこっそりかみしめる。
1位の人が喜んで、僕も喜べる。まさにウィンウィンじゃないか。
こうして、しばらく2位生活を満喫していると、やがて周囲の者も気付き出す。
「あいつ、2番ばっかだな」
だが、これも決して否定的な評価じゃない。1位ではないとはいえ、大抵の物事で2位なのだ。その能力の高さが、2位というオブラートに程よく包まれ、人当たりをもよくさせているようだ。
そのせいか、親しみやすくなったという評判を耳にするようになった。クラスの女子も、すごく優しくなったし、何人かは意味ありげな熱い視線を送ってくれる。
この2位作戦、大成功だったな。そう思っていたら、担任の先生から一言もらった。
「君は、2位を取ることにかけては1位だね」