火曜日の幻想譚
50.書き込み
ネットをぼんやりと眺めていたら、とある掲示板の書き込みが目に留まった。
32 NAME:優斗 2002/12/16 22:20
敬一しねっしんじまえ
一見くだらない書き込みだが、身に覚えがあった。
俺の名は『敬一』。『優斗』という名は俺の小学校からの親友の名。そして、2002年12月16日はその優斗の命日だ。この日の深夜、優斗は自宅のマンションの屋上から飛び降りた。遺書は残っておらず、動機は担任も親も親友の俺もわからなかった。この書き込みが優斗のものであるならば、時間的にも彼の最後の書き込みになる。
「優斗は、俺に殺意を抱いていた?」
身に覚えは全くない……、と言えば正直嘘になる。俺は、勉強もスポーツも何でもできたし、女子や先生からの評判も良かった。一方、優斗はのろまで要領が悪く、まるで正反対の存在。俺は、そんな優斗に対して腹の底で優越感を抱いていた。俺の方が上、そういう気持ちを隠して親友として振舞っていた。感受性が強くて繊細だった優斗が、それに気づいていたとしたら?優斗がマンションの屋上へと上った理由が、それを苦にしてだとしたら?
部屋を、季節外れの生温い風が吹き抜けた。
「だが……」
俺は優斗の書き込みを改めて見つめる。と同時に「言霊」という言葉が思い浮かぶ。この優斗の最後の言葉も、20年近くネットの海を彷徨っていたことになる。その間、俺はどうしていたか。優等生だったはずが、受験に失敗し浪人。その後せっかく入った大学も中退。職を転々とした揚げ句、実家で親のすねをかじっている状態。
まさに散々な人生じゃないか。この人生が自分のせいなのは、言うまでもない。だが、優斗のこの最後の言葉も多少は俺の足を引っ張ったんじゃないか、そんな気になってくる。
俺は『優斗』に返信をして、そっとブラウザを閉じた。
879 NAME:敬一 2021/01/05 00:20
>>32
タヒんだような人生だったよ。すぐ行くからな、優斗