小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

火曜日の幻想譚

INDEX|70ページ/120ページ|

次のページ前のページ
 

51.丸ノコと丸い腹



「やめろ! 悪かった! 助けてくれぇ!」
窓のない狭い部屋。その中央には固定された椅子。哀れな犠牲者は、その椅子に手足を縛られていた。

『ウィィィィン』
犠牲者の数メートル前方には、電動で刃が回転する丸ノコが括りつけられた台。それが、犠牲者の方へと緩慢に歩を進めている。この丸ノコがこいつの醜く突き出た丸い腹に触れれば、それで終わり。そういう寸法だ。

 だが、そんなに早く恐怖が、苦しみが終わってしまっては困る。俺は、刃が椅子にたどり着く距離を小一時間かかるように設計した。これでも短いくらいだが、死神にも多少の情がないわけではない。それに、あの丸ノコは腹を裂いた辺りでちょうど止まるようになっている。
出血はすれど、致命にはならない。そこから始まる苦痛の方がはるかに長いのだ。

 また少し、丸ノコは犠牲者に近づいた。

 こいつを含む近所の悪ガキグループは、30年前俺をいじめ放題いじめ抜いた畜生共だ。後悔の余地など微塵も無いし、憐憫の情などあるはずもない。むしろこの世から害虫(例えて言うなら黒くて素早いあの虫か)を駆除するかの様な、清清しい気持ちすら感じている。

 こういう時、人は安易に“赦し”と言うワードを使ってしまいがちだ。仕返しは何も生まないとか、彼らを忘れて幸せになれとか。だが、仕返しをしなければ、この心に灯った憎しみの炎は消せやしない。例え彼らを忘れても、底辺を這ってしまえば幸せになんかなれやしない。俺の選択すべき道は、最初からこれだと決めていた。
 だれもが、俺のようにすべきだとは思わない。無事にいじめられた経験を克服し、今を幸せに生きている人もいるだろう。それはそれでいい。だが、このような方法だって肯定されてもいいはずだ。

 捕まる覚悟はもう既に出来ているし、既にこの世に未練はない。全員は無理でも、一人でも多く道連れにしなければ……。

 丸ノコは、いよいよ犠牲者に近づいていく……。


 さあ、手始めにこいつを血祭りにあげて、復讐の幕を開けようか。


作品名:火曜日の幻想譚 作家名:六色塔