火曜日の幻想譚
57.深夜の無力感
画面には、杖をついたご老体。その傍らに侍るは屈強な男二人。
「ええーい、控えおろう。この紋所が目に入らぬか!」
お決まりの科白で大団円、やっぱり乙なもんだねえ。
かかぁもがきも寝静まった深夜。すっかり冷めきったメシをレンジで温めてつつきながら、ネットで時代劇を見るのが俺の唯一の楽しみでなぁ。
こないだ出たチンケな額のボーナスも、かかぁに全部持ってかれちまった。けれどまあ、時代劇さえ見せてくれれば、俺はどうにかこうにか我慢できるってもんよ。
おっと、かかぁが起きてきやがった。はいはい。これが終わったらいい加減に寝ますよ。明日も早いですからねぇ。かかぁのやつ、最近トイレ近いな。また体調でも崩してんのか? おい! あんまりひでえようなら病院行っとけよ!
全く、現実は悪い奴ばっかりのさばりやがるし、俺はかかぁの体調にも気づかねえぼんくらだし、さらにゃ、そんなかかぁにうだつが上がらねぇんだから、どうしようもねえ。
時代劇のように印籠を見せつけて、はい、おしまい、ってわけにゃいかねぇのが悲しいよなぁ。