火曜日の幻想譚
66.からくり人形
最近、奇妙なからくり人形のうわさを聞いたんだ。
からくり人形というのはね、機械仕掛けで動く人形のことさ。ほら、お茶を運んでくる人形とか見たことあるだろう、ああいうやつのことだよ。ああいった人形が昔、江戸時代の頃に流行ったらしくてね。さっき言ったお茶を運ぶ人形の他にも、文字を書いたりする人形なんてのもあったみたいなんだ。
もちろん日本だけじゃなくて、海外でも似たようなものは作られてたよ。あちらではオートマタとかいったらしいけどね。オルゴールの技術から発展していったようなんだ。シャボン玉を吹いたり、オルガンを弾いたり、手紙を書いたり……、それはもうすごい技術のオンパレードだったそうだよ。まあ、中にはチェスを指す人形のような偽物〈中に人が入って指していたらしい〉もあったらしいけどね。
さて、薄っぺらいうんちくはこのぐらいにして。件のからくり人形の話をしようと思う。
このからくり人形は、先日、とある旧家の蔵で発見された人形なんだ。きれいな箱に入っていて、とても美しい少女の人形なんだそうだ。で、その人形がどんなからくりなのかっていうと、箱の中の説明書きに書かれているところによると、死ぬことができる人形ということなんだ。
ん? 君もやっぱり、この人形の奇妙さに気づいたかい。そうなんだよ。この人形、からくり人形といいながら、「生前」は何もしない。ただ、巻かれたぜんまいが尽きるとき、その人形は死ぬらしいんだ。
今、そのぜんまいはどうなっているのかって? その人形の内部のぜんまいは、今もゆっくりと回り続けてる。すなわちその人形は、長い間ずっと生きていたということになるね。そして、いつそのぜんまいが動きを止めるのかというと、調査の結果、85年ほど先なんだそうだ。
さっきも話したように、人形は生きている間、何もしない。ひたすらぜんまいが回るだけだ。そして、死を迎えたらどうなるか。これも僕たちには分からない。ただ、ぜんまいが止まることだけは確かだろう。
君の言うとおり、確かに存在理由が分からない人形だ。ただ、僕はこう思うんだよ。この人形は、生と死という二つの概念しか提示しない。だが、逆にこの二つのみを提示することによって、生死とは何なのかをわれわれに突きつける。そんな、われわれの心のからくりを動かすためのからくり人形なのではないかってね。