火曜日の幻想譚
68.骨壺
スクランブル交差点。
その中央に、骨壺が置かれている。真っ白でシンプルな、切立の骨壺だ。
交差点を渡る人は、思わずその骨壺を見てしまう。車で通る人も、必ずそれを目にしていく。
急ぎ足のサラリーマンが、少し歩幅を落として骨壺を見下ろす。女子高生の集団が、ちょっと黙りこくって目の端に入れる。買い物帰りのお母さんが、不快な顔をして凝視する。散歩帰りのお爺さんが、達観した顔で眺めている。
高級車を乗り回すお偉方が、せせら笑いで視界に入れる。自転車に乗る若者が、虚ろな目をしながら視線を向ける。軽に乗るOLが、今晩の予定を考えながら目視する。大型バイクのおじさんが、忌々しそうに目に留める。
でも、誰も骨壺に触れようとはしない。誰も骨壺に近寄ろうとすらしない。
それはまるで、「死」そのもののように。意識をさせつつも寄せ付けず、君臨し続けている。
君臨し続けている……。