火曜日の幻想譚
116.横たわる空
リーン、ゴーン、リーン、ゴーン。
鐘の音が響き渡り、一瞬遅れてハトが慌ただしく飛び立った。真っ白な壁、屋根に掲げられた十字架、西洋の絵本から抜け出してきたかのような、そんな小高い丘の美しい教会。
その教会の正面には、純白のドレスとタキシードを着た一組の男女と、それを囲む数人の人だかり。親しい人たちだけで集まっているのであろう、ささやかな結婚式が、そこで行われているようだった。
丘の下で一人、彼らを見上げながら、思わずコホンコホンとせき込んでしまう。肺をわずらって転地療養に来ていた私は、ちょうどこの場に散歩で居合わせていたのだった。
愛する人と結ばれ、幸せの絶頂にいる彼ら。重い病で、明日をも知れない命の私。ほんの数メートルの丘を隔てて、そんな正反対と言ってもいい境遇の人間がいる。
別に卑下するわけじゃない。でも、その人生における立ち位置に、なにか皮肉めいたものを感じて、少し苦笑いがこぼれた。
彼らを5分も眺めていた頃だろうか。そろそろ、息の苦しさを覚える。もう、サナトリウムへ戻らなければ。心の中で彼らに祝福をし、ゆっくりとおぼつかない足取りでその場を立ち去った。
歩きながら、ふと、見上げる。
真っ青で雲一つ無い空は、そんな私たちの上にもずっと、ずっと平等に横たわっていた。