火曜日の幻想譚
80.クソ田舎
親父がくたばった。
仕事中、いきなり仰向けにぶっ倒れて、それきり意識が戻らなかったらしい。仕事一筋で、ほとんど家庭を顧みなかったあの親父にふさわしい最期だと思った。
会社を早退して実家に戻ったが、相変わらずここにゃ何もありゃしない。草木だけが嫌になるほど伸び腐り、時間の進みはぶちキレたくなるほど緩やかだ。
地元の消防団に就職したケンジが、昔と変わらない芋臭い顔をぶらさげてやってきた。これまた芋臭い顔のカヨコと結婚し、二児の父になったこいつは、親父の死に対する形ばかりの悔やみを述べたあと、日本酒一合も飲まねぇうちにできあがっちまった。
気持ちよさそうに高いびきをかいているケンジ。それをほったらかして、たいしてうまくもないここらで採れた山菜を口に運んだ。
やっとこさ起きたが、相変わらずケンジは前後不覚だ。仕方なく、車に乗せて家まで送ってやることにする。アスファルトどころか、砂利すら敷いてないあぜ道。そこを、ライトだけを頼りにひた走っていく。頭上にはうんざりするほどの星がきらめき、辺り一面ムカつくほどカエルの悲鳴が響き渡る。ハンドルを握りながら、「こんなクソ田舎で終わりたくねえ!」と啖呵を切って、親父と殴りあった夜を思い出す。
……気づくと、景色が涙で滲んでいた。
運転に支障が出るので、一度車を停めて窓を開ける。ケンジはまた、後部座席でがーがー眠りこけている……。
家業、継ぐのも良いかもなぁ。窓から入り込む夜風を感じながら、そう思った。