火曜日の幻想譚
81.喪服のメッセージ
知り合いが亡くなった。
葬儀に駆けつけると、喪主である故人の奥さんが号泣している。お悔やみを述べてお焼香の順番を待っていると、突然奥さんの喪服が明るく光った。何事かと思って、その場にいるものは目を凝らす。すると喪服の中で、奥さんが故人ではない男をベッドに招き入れていた。その男は、ワイシャツをするりと脱ぎ、下着一つでベッドに潜り込む。喪服の中の奥さんが電灯を消すと、喪服は少し薄暗くなってよく見えなくなった。
私たちは、喪服の中の男に見覚えがあった。と言うより、われわれ参列者の中にその男はいた。故人の一番の親友だったその男は、恥じ入って下を向いたまま一言も発しない。
奥さんの薄暗い喪服の中では、二匹のけだものがみだらにからみあっている。号泣している奥さんとの対比が滑稽で、くすくす笑いをおさえきれないものもいる。
恐らく、故人はこの不貞の現場を目の当たりにしていたのだろう。その怒りで、あの世から奥さんの喪服につかの間、真実をかいま見せたんじゃないだろうか。
「『知らぬは亭主ばかりなり』、思うは女房ばかりなりってとこかぁ」
……あまりうまくはないな。お焼香を終え、葬儀場から家へとぶらぶら歩きながらそんなことを考える。そして、家の前にたどり着く。
故人と不倫してまだばれていないと思っているうちの妻をどうぎゃふんと言わせようか、喪服に塩をかけながら、一人でほくそ笑んだ。