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火曜日の幻想譚

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94.ウニのジレンマ



 『ハリネズミのジレンマ』って言葉があるじゃないですか。

 寒いから、みんな近寄って暖まりたい。けど、針が痛いからくっつけない。その結果、次第に適切な距離を見つけていく、っていうあれですよ。
 心理学で使われるみたいですけど、僕これに物申したいんですよね。別にハリネズミさんじゃなくって、僕らウニでもいいんじゃないかって。

 だって、おかしいじゃないですか。この言葉、もともとは『ヤマアラシのジレンマ』だったって聞きましたよ。それが名前からもイメージしやすい、ハリネズミさんに変わったんですよね。それなら似たようなトゲトゲを持つ、僕らウニでも良いんじゃないかと思うんですよ。水族館でもよく見られますし、ま、陸上にクリさんというライバルもいますけど……。とにかくハリネズミさんに匹敵するくらい、僕らも身近で有名だと思うんですけどね。


 あ、そうだ、人間といえばひどいじゃないですか。何って? 僕らの名前のことですよ。人間はよりにもよって、僕らをうんこ呼ばわりするんです。
 うんこに関するあだ名が嫌なのは、人間も小学校でさんざん習ってきたでしょう? 学校のトイレでうんこしただけで、あだ名が「うんこまん」になったという人もいるでしょう。そんな悲劇を経験した人がいるのに、なぜ人間は僕らに『バフンウニ』なんて名を冠したのですか?

 似てるから? 一体どこが似ているっていうんですか? 仮に似ていたとしてもですよ、似ていればどんな名を付けても良いって言うんですか? これじゃ、いじめと何ら変わりがないですよ。

 それだけじゃありません。
 そんな名前をつけておいて、人間は僕らをおいしく食べるんです。全くもって理解に苦しみます。うんこ野郎なんて名をつけたくせに、そいつを高値で取引して食らう。あまつさえ、日本の三代珍味に祭り上げる。そんなことする前に、名前を変えてくれと言いたいですよ。

 じゃあ、人間に対して反乱を起こせばいいじゃないかって? いや、あの、まあ、そうしたいところですけど……。ほら、僕らも人間に便宜を図ってもらってるところあるんで、その、養殖とか。なのでひどい名前ですけど、これからもできれば仲良くしていきたいっていうか……。


 ああ、この微妙な感情が『ウニのジレンマ』と言う言葉で広まればいいのに。


作品名:火曜日の幻想譚 作家名:六色塔