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火曜日の幻想譚

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95.夢



 昨晩、夢を見た。

 内容はなんてことない。友人3人と、砂浜でビーチバレーをするというものだ。夢らしいところと言えば、計4人のうち2人と僕が、ビーチバレーだというのに服を着ていて、残り1人、女性の友人だけはセクシーなビキニを着ていたことぐらいだろう。僕を含む男性陣が全員服を着ていて、女子だけビキニというところに、僕の深層心理が見て取れるかもしれないが、そういうことは詮索しないでいただきたい。
 そうだ、もう一つ夢らしいところがあった。この3人の友人、それぞれ友達でいた時期が違うのだ。A君は幼稚園時代の友達、B君は小、中学校時代の友達、そしてCさんは高校の友人なのだ。
 当然、彼らはそれぞれ面識がない上、容姿は当時のままで止まっている。A君の背は小さいまま、言動も幼稚園児だ。B君の行動や言動は、完全に思春期のそれ。Cさんはビキニを着ているが、それでもやっぱり十代の女性なのだ。
 僕はこれらの違和感に全く気づかず、ビーチバレーを楽しんでいた。幼さゆえ思うように動けないA君を助け、思春期ゆえにCさんの前でカッコつけるB君を暖かい目で見つめ、スケベなおっさんの自分はCさんの若い体に見とれていた。

 ここまで書いてきたとおり、僕は夢を夢と気づかないタイプの人間だ。どんなに非論理的な状況でも、これは夢だという考えに思い至らない。多分、物事を疑わない、おめでたい脳みそに生まれついたのだと思う。
 だが世の中には、こういう状況で夢だと気づいてしまったり、夢をコントロールできたりする人がいるらしい。

 社会人になってからの友人である、Dという男がまさにそれだった。Dは、昔から夢を見ている最中に夢だと気づく性質で、さらに訓練をした結果、見たい夢が自由に見られるようになったと話していた。
「嫌いな野郎をぶん殴ることも、女の股ぐらを見ることも思いのままさ」
もともと品のない男だったせいか、Dは上記のようなことを豪語するのが常だった。

 ある日、そんなDが交通事故にあった。彼が青信号を渡っている最中、車に突っ込まれたのだ。だがおかしいのは、十分歩道に退避する時間があったと目撃者が証言していることだった。
 Dに問いただしてみると、意外なことが分かった。車が突っ込んでくる瞬間、Dはこれを夢と勘違いし、結果を自分で操作するためにあえて立ち止まったというのだ。

「確かに夢だと思ったし、夢ならあんな車、勝手に逸れるんだけどなぁ」

 病院のベッドで、Dは確かに僕らにそう語った。
 彼はその後、この事故のせいで寝たきりになってしまった。多分今でも、病院のベッドで見る夢の中で好き放題やっていると思う。

 でもね、いくら夢で好き放題できても、昨晩見たCさんのビキニ姿をもう覚えていなくても、やっぱり、夢を夢だと気づかないおめでたい人間のほうが、僕はいいなぁって思うんだ。


作品名:火曜日の幻想譚 作家名:六色塔