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火曜日の幻想譚

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96.夢2



 昨晩、夢を見た。

 親友とサシで飲んでいて、僕は、彼に悩みを相談している状況だった。悩みの内容までは残念ながら覚えていないが、とても深刻な内容であったことだけはよく覚えている。
 ああしたらいい、こうしたらいい。議論は紛糾し、僕らは泡を飛ばして意見を出し合い、反論し合う。最後、親友から思ってもいなかった意見が飛び出した瞬間、僕は目が覚めた。

 ほうけた顔で天井を見ながら、今の夢を反すうする。親友の意見はどれも示唆に富んでいた。その点、さすが親友と言わざるを得ない。

「…………」

 だけど、僕は再び考え込んでいた。悩みについてではない。この夢自体がはらんでいる問題についてだ。

 今の夢は僕が見ていたものだ。ということは、僕の脳内で展開されていたということになる。そんな僕の夢に、どうして僕の考えつかなかった斬新な意見が飛び出してこれるのだろうか。
 親友の言葉はどれも、悩んでいる僕には及びもつかなかったものだ。だが、夢自体は僕のものであり僕の思考なはず。一体どのようなメカニズムで、このようなことが可能になっているのだろうか。
「……深層心理とか無意識ってやつなのかな」
僕は半ば無理やりそう結論づける。そう、心の奥底で思っていたが何らかの理由でそうは思いたくない場合、親友の口を借りてその意見を意識に上らせることも可能なのではないだろうか。それならば、つじつまが合わないこともない。

 でも、つじつまが合うだけだ。そこに新たな問題も発生する。
 夢の中の親友は、最後、それでも悩み続ける僕に向かって、
「ならばいっそ、死んでしまえばいい」
はっきりとそう言って、グラスをあおったのをよく覚えている。

 親友のこの意見が深層心理から出てきたものであるのなら、僕は心の奥底で、自殺を願っているのだろうか。
 そして、そのような重大なことを唯一無二の親友に言わせた。単に憎まれ役を買って出ただけかもしれない。だがもしかしたら、僕は心理の深層でこのかけがえのない親友を憎んでいる可能性があるのではないだろうか。

 夢を見たことであらわになった自分自身への不信を抱えながら、僕は布団から出て支度を始めた。


作品名:火曜日の幻想譚 作家名:六色塔