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火曜日の幻想譚

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119.顔そり



 髪が伸びたので切りに行くことにした。

 まず電話を入れて、なじみの理容師に予約を入れる。家から徒歩数分、昔から行きつけの理容室だ。
 店に入ると、忙しいので待つように言われる。予約を入れたのに待つのは心外だが、まあ、商売が繁盛しているのはいいことだ。入口近くの椅子に腰掛け、雑誌をのんびりと眺める。
「お待たせしました」
名前を呼ばれたので席につく。洗髪、カット、再び洗髪、マッサージと順調に工程は進んでいき、いよいよ顔そりの時間だ。

 顔に蒸しタオルが当てられる。心地よい気分の中で顔に泡をつけられ、かみそりを持ったおじさんが、そり残したもみあげやひげを当たり始める。
 僕はその間、じっとおじさんの目を見つめている。別に恋をしているわけじゃない。一応僕は異性愛者だし、彼が既婚者であることも知っている。なら、なぜおじさんの目を見つめるのか。僕は、そのおじさんが顔をそる以外のことをしないか監視しているのだ。
 時々、熱心に仕事をしているおじさんと目が合う。僕はそれでも、彼を見つめたまま意に介さない。じっと彼の目を見つめ続ける。
「お疲れさまでした」
やがて顔そりが終わり、椅子の背もたれが上がりだす。ほっと息をはき、鏡に写った自分の『首』を見つめる。

 いつのことだろう。顔そりの最中、目をつむってしまうと、首を切られて別の首にすげ替えられると知ったのは。今回もなんとか、首をちょん切られて、別のをくっ付けられずに済んだ。

 全行程が終わりお金を支払っている最中、今ちょうど顔そり中のお客が目に入る。
(あーあ、目ぇつむっちゃって)
かわいそうに、と思ったが、惨たらしい流血の現場は見たくない。僕は急いでお釣りをもらい、足早に理容室を後にした。


作品名:火曜日の幻想譚 作家名:六色塔