火曜日の幻想譚
107.開発部署
「部長、部長」
「ん? どした?」
「次のバッター、どうします?」
「右打ち、打率.274、流し打ちも結構多いバッターだったな」
「ええ」
「そろそろいいんじゃないか。最近出してなかったし」
「そうなんですけれど……」
「どうした。なんか問題あるのか」
「今、ノーヒットノーラン中なんですよ」
「おあぁ、そうだったか」
「こういうとき、ライト前ヒット、いっちゃっていいもんなんですかね」
「うーん。ちょっと考えよう」
「わかりました」
「どうするかなあ……」
「……」
「うん。そうだな」
「はい」
「あわやライトに抜けるかというゴロを、セカンドがファインプレーで抑えるってのはどうだ」
「なるほど、いいですね」
「取りあえずそれで回してみて、もう少し他部署の様子を見よう」
「わかりました」
「念のため、セカンドゴロ開発部署さんに連絡取っといて」
「はい」
「しかし、きょう本当にノーヒットノーランにする気かな。うち以外のヒット開発部署も全然仕事してないし」
「ええ、代わりにアウト開発部署、特に三振部署がフル回転です」
「まあ、力のあるピッチャーだからな。ノーヒットノーラン、やってもいいけど、こういう時にホームラン部署が突然仕事したりするからなぁ」
「セカンドゴロ開発部署さんと連絡つきました。セカンドファインプレーの方向で調整してくれるそうです」
「うん。ありがとう」
「……しかし、あれですねぇ。自分の実力だと思いこんでる人間どもを見てると滑稽ですね」
「ああ。ヒットもホームランもノーヒットノーランも完全試合も、全部自分の力で成し遂げたと思ってるんだからな」
「実際は、私たち開発部署のものが判断して、結果を出しているだけなんですけどねぇ」
『おーっと、セカンド大町のファインプレー! まだまだノーヒットノーランは続きます……』