火曜日の幻想譚
2.罠
見知らぬ場所。どこだかわからない。
誰かに追われている。校舎のような大きな建物の、廊下を走っている。どうして追われているのだろう。何でこんな事になったのだろう。やっぱりわからない。もう息が上がりかけている。少しでもいい、立ち止まって休みたい。適当な部屋に入って追っ手をやり過ごそう、そう思った。次の角を曲がって直ぐ。そこに部屋があったら、入り込もう。そう考えて、苦しさの中で足を速める。角を曲がり、部屋があるのを瞬時に確認する。素早く扉を開けて体を部屋に入れ、開く以上の速さで扉を閉める。
追っ手の通り過ぎる足音がした。
室内には何もなかった。椅子もテーブルも、そして窓さえも。そんなことは、どうでもいい。ここならば、少しは落ち着けるだろう。壁にもたれて座りこむ。疲れが襲ってくる。いつの間にか眠っていた。……どれくらい時間がたっただろうか。5分? 10分? それ以上?
「カチリ」、カギのかかる音で目が覚める。同時に不快な機械音。違和感に気づく。天井が近づいている。床が、じりじりとせりあがっているのだ。慌てて扉にかけよる。まさか、さっきのカギの音……。案の定、扉はびくともしない。罠だ。やがて、せりあがっていく床と微動だにしない天井が、ぴったりくっつくことになる……。
少しずつ狭くなっていく部屋の中でできるのは、のたうち回ることだけだった。