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火曜日の幻想譚

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5.美食家



 おい! 大将、シャコ一丁!


 おう、なんだい? いつも羽振りがいいじゃねぇかって? 実際のところは火の車だよ、もうどうにもなんねえんだ。
 じゃ、なんで毎日のように、そんな豪勢なもんばかり喰ってんだって? ……ま、理由がねえわけじゃねえんだけどな。

 うん、今日のは特別いい酒だ。気分がいいから特別に話してやるとすっか。


 あれは、もう3年も前の話だな。この港にな、西洋からの船が到着する予定があったんだ。その船には、わしのかみさんが乗っていた。久々の再開だってんで、そわそわしながら船が着くのを待っていたんだ。だがなぁ、わしが双眼鏡で見ている目の前で、突然船は沈没しちまった。助かった乗客はほとんど居ないというくらい、悲惨な事故だった。わしのかみさんも、船もろとも海の底に沈んじまってなぁ。それだけじゃねえ、遺体もいまだに見つからねえんだ……。

 だがな、その事故以来この港でとれる魚介が丸々と太り出し、大層美味くなったんだ。なぜ? 理由は簡単さ。事故で沈んじまった人間の遺体を、奴ら、美味そうに喰っていやがるからだ。

 というわけで、久しぶりにたっぷり可愛がってやろうと思ってたかみさんと、二度と会えなくなっちまったわしは、ちょっと違う形でかみさんと一つになってやろうと思ったんだ。そう、かみさんの体にかじりついたかもしれねえ奴らを喰らうことで、体に取り込もうというわけよ。
 そういうことだからもちろんかみさんじゃなくて、見ず知らずのおっさんを間接的に喰らってるかもしれねぇな。でも、ま、それも供養ということだ。

 ハッハッハッハッハ。兄ちゃんよぅ、こんなんでゲーゲー戻してちゃ、とてもじゃねえが愛は貫けねえよ。


 というわけで、大将。お次、イセエビ握ってくんな、兄ちゃんの分もな。アッハッハッハ……。


作品名:火曜日の幻想譚 作家名:六色塔