火曜日の幻想譚
8.引退
朝、突然体温計が言った。
「どうも、熱があるみたいなんです」
確かに、持ってみるとほのかに温かい。
「でも、僕にはわきの下も舌の裏もないんです」
体温計は悔しそうに言う。
「自分の体温もよくわからないのに、人の体温など計れるわけが無いので、もう僕は引退します」
その言葉を最後に、うんともすんとも言わなくなってしまった。
僕はため息をついて、その体温計を冷蔵庫に入れて冷やし、しぶしぶ新しい体温計を買いに出かけた。多分高熱のせいであろう、ふらふらする体を引きずりながら。