火曜日の幻想譚
11.変身願望
暑いので、何か冷たい物を食べようと思い、甘味処の暖簾を潜ったときのことです。
注文してしばらくして。運ばれてきたところてんに、一匹のミミズが紛れ込んでいました。ミミズは、黒蜜から顔をもたげて言います。
「僕、どうしてもところてんになって、人間に食べられたいんです」
そしてにんまり笑い、再び黒蜜の中に顔を沈めました。
器を眺めていると、今度はところてんたちが次々に声を上げます。
「わしは、ミミズになって、土壌の改良に一役買いたいぞい」
「俺は、釣り針に括りつけられて、魚にぱくりといかれてぇよ」
「僕、喘息の薬になりたいな」
「あたしゃ、ハンバーガーの肉になろうかえ」
「おまえさん、そりゃガセじゃ。わしと一緒に小便かけてきた奴に復讐しよう」
「おじいさんや、聞いたところによるとそれもガセらしいですよ」
「それじゃ、二人で食物連鎖に貢献するとしようかのう」
こうして、ところてんは一本また一本と去っていきました。器には先のミミズが一匹、黒蜜の底に身を潜めるだけです。
一匹だけ残っても、期待にわくわくしているそのミミズに、
「次の機会に、食べてもらいな」
とだけ言い残し、私は甘味処を出て行きました。