火曜日の幻想譚
13.通夜
しめやかな通夜の席。故人を偲び号泣している者もいる中、誰かが声をあげる。
「でもさ、90も後半まで生きたなら大往生だよ。爺さん」
しばしの沈黙。やがて、別の者が恐る恐る声を出す。
「俺、90前半って聞いたよ?」
「……俺も」
皆がざわつき始める。その中で、さらに別の者が喚く。
「おいおい、それより爺さんって何だよ。婆さんだろう?」
「そうだよ。孫が大好きな婆さんだったじゃないか」
再び一瞬の沈黙。そして、ざわめきはさらに大きくなる。そんな中、眠たそうな男の子がおずおずと喋りだす。
「別に優しくなんかなかったよ。お年玉もおこづかいもちっともくれなかったし。訳もなく叩かれたことだってあったよ」
「……じゃあ、亡くなったのはいったい誰なんだ?」
誰かが恐る恐る発したこの問いかけに、ざわめきがぴたりと止む。
その瞬間、棺の奥で骸がニヤリと笑った。