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火曜日の幻想譚

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20.用途



 みなさんは、走馬灯というと何を思い出すでしょうか? 恐らく大抵の人が、「今際の際に見る景色の例え」を思い出すのではないでしょうか。もしかしたら、その例えだけを知っていて、実際の走馬灯を見たことない方も多いかもしれません。

 我が家には、先祖代々伝わる走馬灯があります。

 我が家のそれは、筒状の枠が二重になっていて、中央にろうそくを立てるものです。そうすることによって煙突効果を生じさせ、内側の絵が描かれている筒が回り出し、幻想的な影絵が映し出されるようになっているのです。
 ところで、うちの走馬灯には、奇怪な言い伝えがあります。それは、この走馬灯を見ている者は、本当に死んでしまうというものです。この言い伝えが非常に危ないという理由で、わが家の走馬灯は厳重に保管され、長く日の目を見ることはありませんでした。

 しかし、それが最近になって変わってきたのです。

 きっかけは、とある男性の来訪でした。末期のガンに侵されたその男性は、
「お宅の走馬灯を見ながら、苦しまずに死んでいきたい」
と私たちに言い募るのです。
 彼が安らかに死んでいったことは、あっという間に世間に広まりました。すると、我も我もと何らかの事情を抱えた者が、我が家に押し寄せて来るようになったのです。

 それ以来、日夜私は彼らを一室に集めます。そして、走馬灯の中のろうそくに火をつけて、足早に立ち去るのです。


作品名:火曜日の幻想譚 作家名:六色塔