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火曜日の幻想譚

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111.正念場



 俺らは魔王を倒すべく、冒険を続けていた。そして紆余曲折を経て、伝説の剣が刺さっている場所にたどり着いたんだ。

「勇者殿、この剣は剣自身が主と認めた者しか抜くことができない、伝説の剣ですぞ」
博識である魔法使いの爺さんが、勇者に耳打ちする。
「早く抜いてみましょうよ」
いつも健気で元気な女僧侶も剣を抜くことを勧める。

 勇者は、仕方ねえなぁという表情で剣に手をかけた。
「おお」
俺ら三人が見守る中、勇者は剣を見事に抜いて見せる。

「おい、やったな」
かけよる俺に、勇者はこともなげにそれを渡して言った。
「お前、装備できるなら装備しといて。無理なら袋に入れといて」
その言葉と同時に、俺の手の中で生気を失っていく剣。戦士の俺には、とても装備できない代物だということがすぐに分かる。
「いや、お前が装備しなくてどうすんだよ!」
俺は怒鳴るが、全く聞く耳を持たない。
「俺は、こいつが一番いいのさ」
勇者はそう言いながら、無骨なこん棒を手に取った。

 この男――勇者は、冒険を始めた時から、ずっとこのこん棒で敵と渡り合ってきた。どうのつるぎもはがねのつるぎもミスリルソードも備前長船もグラムも装備することをせず、スライムもゴブリンもトロールもサイクロプスもドラゴンも、みんなこん棒でぺしゃんこにしてきたんだ。

「ねぇ。そろそろ魔王の城も近いからさ。別の武器を試してみようよ」
僧侶が俺の意見を後押しして、武器の変更を勧めてくれる。
「今のうちにいろいろと、武器を試しておくのは重要ですぞ」
魔法使いの爺さんも言葉巧みだ。

「いや、これでいい。逆に今、乗り換えるとおかしなことになるかもしれないし」
だがやはり、勇者は取り合ってくれない。


 俺ら3人は、思わず腕組みをして考え込んでしまう。いや、別に勇者が何を装備しようが直接的には構わないのだ。ちゃんと、それで結果も出しているわけだし。

 だが勇者が、町で売っていたこん棒で魔王を打ち倒しましたとなったら、色々と困るだろう。後に伝説になったときも、やはりちょっとまずい感じがするんじゃないだろうか。伝説といえば武具だって後々、世に伝わる。それがこん棒だと少々どころか、かなり、決まりが悪くはないだろうか。子どもたちだって勇者ごっこをするとき、かなりやりにくいはず。
 それだけじゃない、魔王にだって面子があるだろう。こん棒なんぞにやられましたとあっては、数千年後また復活するとき、かなり恥ずかしいのではないだろうか。

 それもこれも全てはここで、勇者が伝説の剣に持ち替えれば、丸く収まることなのだ。

「なぁ、一回使ってみよ。一回だけ」
「いや、俺はこれでいい」
「そんなこと言うもんじゃありませんぞ。この剣は生きている剣。使い心地は段違いのはず」
「生きている剣なんて、逆にやりづらいだけだよ」
「あたし、勇者くんが剣を使うとこみたいなあ。キュンキュンして惚れなおしちゃうかも」
「別に、お前ただのビジネスパートナーだし」


 魔王との闘い以上に、俺たち3人にとってはここが正念場なのだ。


作品名:火曜日の幻想譚 作家名:六色塔