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夢ともののけ

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「僕は物の怪の化身のようなものです。あなたの夢の中に出てきました。というよりもあなたに憑りついていると言った方がいいかも知れない。僕はあなたのことをずっと前から知っています。それこそ生まれた時から寝。僕はあなたが生まれる前の記憶はありません。人間も生まれ変わるように僕たちも生まれ変わるんです。そして憑りついたその動物になりきることができ、心の裏に潜んでいるんです。だから僕はあなたの心の中に住んでいると言って過言ではありません。あなたはもう一人の自分に話しかけていると思ってくれていいです。あなたが夢を見る時、もう一人の自分を感じているでしょう? それはこの僕なんですよ」
「どうして今私の前に?」
「ちょうど今があなたの前に現れる時期なんですよ。優香さんが小説を書き始めたのは、実は僕が憑りついているからなんです。僕には記憶がないけど、かつての意識の中に小説というものがあり、それを優香さんが表現してくれている。そのお礼が言いたいというのもありますね」
「そうなんですね。今こうやって見ているのは夢なんですよね?」
「ええ、そうですよ。でも、あなたの思っているような夢と現実に違いなんてないんですよ。対比する何かが存在しているだけで、別にその世界に境があるわけではない。それを優香さんは自分の小説で感じることができるはずですよ」
 と彼は言った。
「あなたは私だけの物の怪さんなんですよね? じゃあ、他の人にも同じように誰か物の怪さんがついているということなんでしょうか?」
「すべての人というわけではありません。ついていない人もいます。ついていたけど、離れてしまう人もいれば、ついていなかったけど、途中からつく人もいます。いろいろですよ」
 優香はそれを聞いて不可思議な気持ちになった。
「今までついていた人から離れる物の怪がいると言いましたけど、それはその人が死んでしまうということになるからですか?」
「そういうパターンもあるでしょうけど、違うパターンもあります。人間が考える発想というのは、我々物の怪から見れば、実に小さな範囲での考えなんです。だからこそ人間は狭い範囲ではその実力を大いに発揮できて、まるで生物の代表のように振る舞っているけど、決してそんなことはない。傲慢さという意味では、どんな動物よりもすごいということなんですよ」
「何か、このお話を小説に書いてみたくなりました」
「いいですよ。でも、このお話を読者がどう感じるかは分かりませんよ。いかに書くかが問題ですね。まずは優香さんが信じたことを書いてみて、発表するかどうかは、それから考えればいい」
 と言われて、優香は小説を書き始めた。
 彼とはその夢で会ったきりで、その後、出てくることはなかった。そして優香は完成した小説を何度も読み返した。
 結局、そのお話が世に出ることはなかった。
「これでよかったのかな?」
 と、優香は彼の声が聞こえてくるかのようだった……。

                  (  完  )



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作品名:夢ともののけ 作家名:森本晃次