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夢ともののけ

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。ご了承願います。

 有原優香が小説を書こうと思ったのは、中学生の頃が最初だった。友達の中に、
「私、将来小説家になりたいの」
 と言っていた人がいて、なぜか優香とウマが合った。
 実際には優香が合わせていたところが大きかったのだが、そんなことを感じさせないほど優香にとってその友達とは違和感なく付き合うことができて、気が付けばいつも一緒にいたのだった。
 その友達は性格的には天真爛漫であり、天然と言ってもよかった。自分から話題を見つけてきて話を始めるくせに、せっかく盛り上がってきた話を途中から変えようとするところがあり、まわりを困惑させることもあったが、
「ああ、ごめんごめん。悪気はなかったのよ」
 と、まわりから指摘されても、悪びれることなく受け流してしまうので、誰も文句が言えない。
 ある意味得な性格だとも言えるだろうが、本当の友達ができるはずもなく、まわりからは浮いた存在になっていた。
――もったいないな――
 彼女の悪びれない性格を羨ましく思っていた優香には、そんな彼女の性格がもったいなく思えて仕方がなかった。
 だが、逆に羨ましくもあった。
――友達が絶対にいなければいけないという理由はない――
 と常々思っている優香には、彼女くらいの性格の方が適しているのかも知れない。
 優香は知らず知らずのうちに彼女の性格を模倣するようになり、自分の性格を顧みることもなく、天真爛漫で天然なところを前面に出していった。そのせいもあってか、いつの間にか性格的に無理していたことが災いし、忘れっぽい性格になっていたようだ。
 もちろん、本人にそんな自覚があるわけではなく、優香は一人でいることが多くなった。優香はそれでいいと思っていたが、最初の頃はそんな自分を客観的に見て、
――本当にこれでいいのかしら?
 と考えるようになった。
 中学時代は、友達の方が小説をよく読み込んでいて、優香はさほど小説を読んでいなかった。
「私、あまり小説を読み込んでいないけど、いいのかしら?」
 と、友達に言うと、
「大丈夫よ。その方がオリジナリティがあっていいわ。なまじ私のように読み込んでいると、好きな作家の真似事になってしまって、納得のいく作品ができないもの」
 と言われた。
「でも、好きな作家さんの小説に似ている方がいいんじゃないの?」
 と聞くと、
「そういう人もいるかも知れないけど、私は嫌なの」
「どうして?」
「だって、私はサルマネはしたくないんですもの」
 と言って笑っていたが、優香には彼女が何を言いたいのか、その時は分かりかねていたのだ。
――サルマネって、どういうことなのかしら?
 と思ったが、その時はそれ以上あまり考えなかった。
 ただ、優香は基本的に人のマネをするのが嫌いだった。どんなに優秀なものができたとしても、マネされた人を超えることはできないと思っていたからだ。それだけオリジナルを大事にする性格なのだろうが、中学時代にはそこまで考えが及ばなかった。
 友達は、定期的に作品を完成させていって、
「最初に優香に読んでほしいの」
 と言って、いつも最初に読ませていた。
 彼女の作品を読んでいると、時々ドキッとするフレーズにぶつかることがある。それはきっと、
――自分が書くとすれば同じフレーズを書くに違いない――
 と感じているからで、そのフレーズを見た瞬間、
――彼女には敵わないわ――
 と、諦めが頭をよぎるのを感じていた。
 その思いがあるからか、優香の方ではなかなか作品を完成させることができない。数行書いては気に入らずにまた頭から書き直す。優香には最初にプロットを組み立てて作品を書くということができないでいた。
「プロット?」
「ええ、小説を書くためのコンテのようなものね。あらすじを簡単に考えておいて、そこから次第に具体的なストーリーに仕上げていく、その時の過程がプロットと呼ばれるものなのよ」
 と、友達が説明してくれた。
 優香は、いつも最初の書き出しを思いついてから、いきなり書き始める方だった。
「書いているうちに、思い浮かんでくるものなんじゃないの?」
 と優香は感じていたが、
「そんなことはないわ。ある程度書き込んできた人にならできる芸当なんだけど、初心者には難しいと思うわ」
 普段の天真爛漫で天然なところが前面に出ている彼女のセリフだとは思えない。
「そんなものなのかしら? だけど私には、最初からストーリーを作っておくなんてことできないの。だから、書き出しだけでも思いついてから徐々にストーリーを継続させていくようにしないとダメな気がするの。だから、書き込んで来れば、逆にストーリーが思い浮かんでくるようになるんじゃないかって思っているの」
 小説を書く基本があるとすれば、彼女の理論が基本になるのだろうが、全員が全員、同じ流れではないと思っている優香は、自分のやり方が自分には合っていると思っていたのだ。
「あなたは小説を書くということに関しては、真剣に立ち向かっているようなのね。私にはそんなあなたが羨ましく思うんだけど、そう思えば思うほど、自分とは違うと思えてならないの」
 と優香がいうと、
「そうかも知れないわね。相手が正論であればあるほど、自分はその正論に逆らいたくなる。相手と同じでは嫌だという考えが芽生えてくるのかも知れないけど、その思いが強ければ強いほど、個性として表に出てくるものなのかも知れないわね」
 と、彼女も言った。
 彼女の小説は、青春小説が多かった。ライトノベルに近く、アニメの原作にも通用しそうな内容は、却って小説として読むことの方が新鮮に感じるだろう。
「アニメはアニメの世界がある」
 優香はそう感じていた。
 友達には内緒だったが、優香は小説よりもアニメの方により強い興味を持っていた。しかし絵心に関してはまったくひどいものなので、早々にアニメの世界を諦めていた。
「ビジュアルに訴えると、本当に正直に表に出てくるわね。残酷なくらいに出てくるので、アニメは見るだけの世界だって思うようにしているの」
 友達が、
「小説を書かない」
 と言ってくれた時、優香は正直躊躇した。
――絵心がないのでアニメを諦めたのに、いとも簡単に小説に気持ちが移るなんてこと、ありえないわ――
 と感じていたので、
「ちょっと考えさせて」
 と答えた。
 友達は、想定外の答えだったはずなのに、
「そう、分かった」
 と、必要以上なことを何も言わず、優香の返事を待っていた。
「私も小説を書いてみるわ」
 と答えた時、
「それはよかった。私はあなたには小説が似合っていると思っているのよ」
 と、かなりテンション高めに喜んでいるようだった。
「そう? 私は小説なんて、ほとんど読んだこともないのに、それでもいいのかしらね?」
 と、最初の話に戻ってくる。
 優香が小説をあまり読んだことがないという言葉の裏には、
――私は小説よりもアニメの方に興味があるのよ――
 と言いたかった言葉をぐっと飲み込んでしまった様子が伺えた。
作品名:夢ともののけ 作家名:森本晃次