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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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首ちょんぱにっく1


 床や棚に並べられた品々は、アンティーク屋の倉庫を思わせるが、ここはクラウス魔導学院のとある倉庫だ。
 アンティークというのはあながち間違いではなく、ここには古い時代の魔導具も多く眠っている。ちょうどルーファスが棚にしまおうとしているランプは、今から300年ほど前にアラジンという召喚士[サマナー]が召喚に使用していたとされる魔導具だ。
 足下に何気なく転がっている壷も蠱毒と言って呪殺の怨念を練り込むのに使用する物だ。
「ねぇねぇルーちゃん、見てみて!」
 ルーファスの背後からビビの声がした。
 振り返ると小さな箱を開けて、中身をこっちに見せているビビの姿。箱の中身はキラキラと輝く宝石が美しい指輪だった。
「ダメだよ勝手に開けちゃ!」
「いいじゃん、ちょっとつけてみよぉっと」
 真紅の宝石が妖しくきらめく。
「ダメだって、呪われてるかもしれないし!」
「えっ?」
 もう指先にリングが通る寸前だった。
 慌ててルーファスはビビの手をつかむ!
 ドン!
 ルーファスがビビを押し倒す形になり、ビビの手から指輪が放り出された。
 ピューンっと飛んだ指輪がコロコロっと床を転がる。
 そして、整理されていない魔導具の山の中に入ってしまった。
「もぉ、ルーちゃんが押すからだよぉ!」
「はいはい、すぐに探しますよ(呪われてたら大変なことになってたのに、なんで僕が悪いみたいな)」
 いい加減な返事をしてルーファスは魔導具の山を覗き込んだ。
 粗大ゴミ置き場状態の隙間の奥のほ〜〜〜っの床に、真紅の輝きが見えた。
 しゃがみ込んだルーファスは隙間に片腕を差し込んで、ググッと懸命に伸した。
「届かない……たぶんあとちょっとで届きそう……なんだけど……」
 腕に力が入ってプルプルと震える。
「ルーちゃんガンバレっ!」
「ビビのほうが身体小さいし届くんじゃ?」
「アタシよりルーちゃんのほうが腕長いからイケるよ! ほら、がんばって!」
「がんばってるよ……ん、指先に当たった……あと……ちょ……っと」
 さらに奥へと腕を入れようと、瓦礫の山を身体ごとグッと押したとき、微かにガタッと物音がした。
「リングに指先が入ったからこのまま……」
 そのときだった!
 ガタガタッ、ゴゴゴゴゴゴゴッ!
 瓦礫の山が崩れたのだ。
「ルーちゃん!」
 積もっていたホコリが部屋中に舞って視界を覆い隠す。
 しばらくして、ホコリの中で長身のシルエットが立ち上がった。
「ゲホッ、ゲホッ……あったよ、指輪」
「ルーちゃんだいじょうぶ!?」
「どうにか。でもホコリが目に入って、目が開けられない」
 やがてホコリの煙幕も晴れてきた。
 そして、事件は起きた。
「きゃーーーっ!」
 声量たっぷりの悲鳴をあげたビビ。その表情は凍りつき、見開かれた視線の先にあるモノを、震える腕をゆっくりと上げて指差した。
「る、るーちゃん……く、くび」
「どうかした?」
「くびが……」
「(まだめがしょぼしょぼする)あれ?」
 瞳を開けたルーファスはきょとんとした。
 床が直角に立っている。
 顔が横になっているのだ。
 しかし、ルーファスの足の裏はしっかりと床について立っている。
 再びビビが叫ぶ。
「首がない!」
「ええええええぇぇぇっ!!」
 ゴロンと転がったルーファスの頭部が叫んだ。
 その傍らには首から下が立っていて、あたふたしたようすで足踏みをしている。
 いったいなにが起きたのか?
「ルーちゃんとにかく首、首拾わないと!」
「え、どこ、ここどこ?」
 あわてふためくルーファスは突然走り出し、その勢いで壁に激突した。
 ドン!
「イタっ!」
 身体とは離れた場所から声がした。
「僕の頭! どこ、ここどこ?」
 身体がどこにいるのかもよくわからない。
 切り離された頭部と身体は意識が繋がっているらしいが、見えている景色と身体の位置関係
が合っていないので、思うように身体が移動してくれない。
「うまく拾えないよ!」
 あさっての方向でどじょうすくいのような動きをするルーファス。
「ぜんぜん拾えないから代わりに拾ってよ」
「ヤダよ、ちょっと(気持ち悪い)」
 生首だ。しかも生きている。
 ふらふらしていたルーファスの身体が、なにかにつまづいた。
「おっと!」
 すぐに足下を見たが、そこには足がなかった。慌てて自分の身体を泳ぐ視線で探し、床に落ちていた長い物体を見つけた。
 剣だ。
 錆びて今にも朽ち果てそうな長剣だった。その刃にこびりついたどす黒い痕。血だ、剣が吸った血だった。
 まさかこれで首を落とされたのか?
 しかし、こびりついている血は古そうだ。そもそも、ルーファスは一滴も血を流していない。首の断面図はまるで異空間に繋がるような深淵が広がっている。通常に切り口ではないことは明らかだ。
 どうにかやっと自分の首を拾って、両手で頭を持ちながら、床の剣をまじまじと見た。
「鞘がないけど……どっかに落ちてない?」
「あったよ、これでしょ?(なんかラベルがついてる)ドゥー、ドラ? ドラハンの剣?」
「読めてないでしょ。ちょっと見せて?」
 ビビは鞘のラベルをルーファスの胸の位置――両手で抱えている頭部の前に出した。
 文字は公用語ではなく、魔導文字の一種だ。ここで管理されている物はこの文字でラベルなどがついている。
「なになに……ドゥラハンの剣?」
 その名に聞き覚えがあった。
 自分の頭を抱えながら考え込むルーファス。う〜んという声が腹のあたりからする。
 今日も似たような言葉を聞いた気がする。いったい、いつ。どこで、だれが?
 たしかあれは倉庫の整理をファウストに頼まれたときだ。そこに運悪くカーシャがやってきて、いつもどおり二人は学院内でケンカをはじめた。毎度のことなので、ルーファスはそ〜っとその場を離れようとしたのだが、カーシャの放った氷結魔法のツララが飛んできて、すかさずルーファスがしゃがんで避けた直後だった。
 ――ドゥラハンの盾!
 そう叫んだ。ファウストだ、ファウストがツララをガードするために唱えた防御魔法だった。
「ファウスト先生ならなにか知ってるかも」
 ルーファスはつぶやいた。
 ファウストはファウストは召喚士として名高いが、学院では魔導具の授業を過去に受け持っていた。なぜなら彼が魔導具マニアだからだ。ちなみに過去に――というのは、彼があまりにマニア過ぎるので、授業が予定通りに進まないことが多く、魔導具学講師をハズされたからだ。
 ドゥラハンというキーワード、魔導具マニア、ここの整理を頼んだ本人、となればファウストのところに行かないほかはない。
 ビビが大きくうなずいた。
「うん、だったらセンセーのとこにレッツゴー!」
 と明るく元気なビビちゃんだが、傍らのルーファスはどんよりと重い空気を背負って暗い顔だ。
「この姿で人前に出たくないんだけど」
「あ、そうか、キモイもんねっ!」
 グサッ!
 まるで心臓に杭を打つような一言。
「キモイって……なりたくてなったわけじゃないんだけど(鏡がないから自分の姿見えないけど、そんなにキモイのかな?)」
 落ち込むルーファス。