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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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 テレポートは厳密に言えば、場所から直接別の場所に移動するのではなく、〈魔の道〉と呼ばれる場所を通過する。通常は記憶にも残らないほどの時間で通り抜けることができ、目的地に辿り着くことができる。
 ルーファスとクラウスのテレポートも無事に移動でき、それは一瞬の出来事だった。ちなみに、複数でのテレポートは難易度と危険度が上がる。
 その場にテレポートしてきた二人が全身で跳ねた。下から突き上げるふわふわのスプリング。
「きゃふ」
 声をあげたルーファスはクラウスの上で抱き締められた。
 ベッドの上で!
「大丈夫かい?」
 クラウスが甘く囁いたような気がする。
 ベッドの上で!
 いったいここはどこなのか?
「うちのベッドより高級そうだ」
「すまない、急だったので私の寝室に飛んでしまった」
 テレポートは知らない場所への移動は、なんらかの補助がない限りは不可能に近く、逆に思い入れが深い場合やよく行く場所は飛びやすい。
 が、今のルーファスは脳内桃色レボリューションなので、なぜここにという問いがあらぬ方向の解答を導き出す。
「(ベッドルームに連れ込むなんて、しかもクラウスのプライベートな神聖な領域。そんなところに連れ込んでなにをするつもいりなのっ!?)」
「(いつも限界まで職務をこなし倒れるように眠ってしまうからな。緊急時に意識が朦朧としていても、この場に飛べように訓練していたからだ)」
 まだふたりは抱き合ったままだった。
 ベッドの上で!
 クラウスの両手がルーファスの背中を軽く押さえている。
「(いやん、クラウスったら奥手なんだから。もっとギュッと、ギュッと抱き締めて離さないでぇぇぇン!)」
 キモイ。
 声に出さないだけマシだが、表情にはすでに歓喜と苦痛の狭間で身悶えてます的な表情で、キモイ。
 辛抱堪らずルーファスからギュッと抱きしめた。胸部による窒息法――またの名をボインスープレックス。
「や、やめろッ!」
 声を荒げたクラウスがルーファスを突き飛ばした。
 瞬時にクラウスは後退り、部屋の隅に背中を押しつけた。その表情は蒼白く汗を大量に流していた。
 涙ぐむルーファス。
「ひどいわクラウス、ぐすん」
 口語まで女体化していた。
 ゆっくり近づいてくるルーファスにクラウスは明らかに怯えている。その視線は胸に向けられていた。
「来るなルーファス! ダメだ、絶対に僕のことを抱き締めたりするなよ! 絶対だぞ!」
「私のことが嫌いなの?」
「苦手なんだ」
 が〜ん!
 ルーファスショック!
 ショックのあまり猪突猛進。
 両手を広げてクラウスに飛びかかった。
「クラウスぅ〜〜〜っ!」
「ぎゃあああああっ!」
 ボインアタック!
 クラウスの顔面が縛乳に埋もれた。
「ふぐっ……やめろ……(苦しい……もう意識が……)」
 ルーファスの胸の谷間でクラウスからふっと力が抜けた。
 気絶したのだ。
「ク、クラウス!? どうしたのクラウス!」
 とりあえず気絶したクラウスをベッドに寝かせた。
「(どうしよう……?)」
 様子をうかがいながら、視線は自然と唇へと向けられていた。
 瑞々しい高貴な薔薇のような唇。
 ――人工呼吸!
「(ダメよ、そんな……緊急事態とはいえ、唇を奪うなんて……嗚呼、でもこの想いが止められない!)」
 早まるなルーファスーーーッ!!
 顔と顔が重なりそうな距離まで近づいた。
 ガチャ。
 突然、ドアの開く音がして声が飛び込んできた。
「今日もクラウス様のお部屋を……ッ!?」
 30代くらいの侍女らしき者が部屋に入ってきた。手には掃除道具のぞうきんの掛かったバケツとホウキを持っている。
 口と瞳を丸くしてルーファスは唖然としながら侍女と目を合わせた。
 言葉が出ない。
 侍女はホウキの柄をビシッとルーファスに向けた。
「どなたですか!」
「あ……いえ……そのクラウスの友達です」
 男女がベッドにいる状況。明らかにただの友達という感じではない。しかもじつは両方男っていう。
 侍女は深く頷いた。
「クラウス様がわたくし以外の女人をご自分の部屋に招くなんて……ついにクラウス様も大人の階段を! 嗚呼、今日はなんとおめでたい日なのでしょうか!」
 なんかズレたひとだ。見知らぬひとが王様の寝室にいたら、もっと大問題になるだろう。
 ルーファスはそっとクラウスの身体から離れた。
「あのぉ、抱き締めたらクラウスが気を失ってしまったんですけど?」
「まあ、本当に!? クラウス様、大丈夫でございますか!」
 クラウスが気絶していることにやっと気づいたようだ。
 侍女は豊満な胸を揺らしながらクラウスに近づき、その上半身をベッドから起き上がらせて抱き締めた。
「クラウス様、クラウス様、起きてくださいまし!」
「う、うう……」
 小さくうめいたクラウスは静かに瞳を開き、侍女の胸の中にいることに気づいて、恐怖で顔を引きつらせながら飛び上がった。
「モレナ!」
「嗚呼、クラウス様、お気づきになられたのですね。わたくし嬉しくて……」
 モレナは両手を広げクラウスに近づく。
「近づくな、その胸で!(やむを得ない)テレポート!」
「待ってクラウス!」
 声をあげてルーファスは慌ててクラウスの袖を掴んだ。
 一瞬のうちに二人がやってきたのはクラウス魔導学院の正門だった。
 クラウスは汗をぐっしょりとかいて息を切らせている。
「危なかった」
「だいじょうぶクラウス?」
「君には打ち明けるよ、だから秘密の話にして欲しい」
「(えっ、ふたりだけのヒミツ? きゃは♪)」
 脳内桃色。
「じつは胸の大きな女性に抱きつかれるのが苦手なんだ」
「そ、そんな……(なんて残酷な運命なの、こんな胸、こんな胸なんてなくなってしまえばいいのに!)」
 ルーファスはクラウスに背を向けて自分の胸をもぎ取ろうとした。
 沈痛な面持ちなクラウスはルーファスに構わず話を続ける。
「幼いころのトラウマがあって……さきほどのモレナは僕の乳母だったんだが、何度もあの胸で窒息死させられそうになって……見る分にはどうにか恐怖に打ち勝てるんだが、抱き締められて顔に胸を当てられると……」
 窒息でもすんじゃないかってほどクラウスは蒼い顔をした。
 ルーファスは瞳をうるませた。
「そうだったの……なんてかわいそうなクラウスなの! だいじょうぶ、私の胸で弥してあげる!」
 癒えねぇーよ!
 ルーファスが爆乳を揺らして飛びかかってくる。
 苦しげ表情のクラウス。
「(テレポートで逃げる余力もない)ライトニング!」
 激しい閃光を放って目眩ましだ。
 目を固く閉じて怯んだルーファス。逃げる足音が聞こえる。目を開けられるようになったとき、もうクラウスは30メティート(36メートル)は離れた位置で背を向け走っていた。
「待ってクラウス! 私を置いてどこに行く気なの! クイック!」
 猛ダッシュでルーファスが追いかける。
 学院内の廊下を駆け抜ける。
 途中の廊下で左右を見渡しながらなにかを捜しているようすのルシとすれ違った。クラウスは気づいたようだが、ルーファスはクラウスに夢中で気づいてない。
「待って!」
 ルシが声をかけたが二人は見向きもせず駆け抜けていった。