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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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トランスラヴ3


 一方そのころカーシャは――。
「妾のプロテインはまだかーッ!!」
 注文の品が変わっていた。
 薄々わかっていたかも知れないが、じつはこの性転換は肉体のみの転換だけでは済まないようだ。
 つまり、ルーファスの一連のキモイ思考や行動も、決してルーファスが変態化したわけではなく、この性転換の仕業だったのだ。
 しかもどうやら、内面の変化は自然なモノというより、ちょっと振りすぎ――行きすぎてしまうようだ。
「妾の筋肉を見よ!」
 両腕に力こぶをつくってマッスルポーズ。
「この美しい筋肉を見るのだーッ!(ふふっ、筋肉バカ)」
 自分の筋肉に惚れ惚れしてニヤニヤするカーシャ。もう不気味すぎて勘弁して欲しい。
「この筋肉が目に入らぬかーッ!」
 マッスポーズを次々と変化させながら、自称美しいボディを見せつける。
 その見せつけられている相手はというと――無反応!
 黙々と調合実験を続けているローゼンクロイツ。
 彼、いや彼女、いや、彼……とにかくローゼンクロイツも性転換して、女体化しているハズなのだが、乙女チックに内面がなってないようだ。というより、なっていてもよくわからない。ローゼンクロイツはどんなときでも例外扱いだ。
 華麗にシカトするローゼンクロイツにカーシャが迫る。ついに服を脱いでその全裸まで披露した。
 ちょっとした過ちなので、カーシャの名誉のために詳細な全裸描写は控えよう。その変わり、その全裸をやっと顔を上げて見たローゼンクロイツの表情から察してみることにしよう。
 無表情。
 3秒後――無表情。
 5秒後――無表情。
 10秒後――無表情。
 30秒後――無表情。
 この間、瞬きもせずカーシャを見つめていた。
 そして、顔を下げて黙々と調合に戻る。
 この間、何十回とポージングを変えたカーシャは、相手の無反応っぷりに怒りを通り越して、ただただショック!
「(もうローゼンクロイツとは遊んでやらんも〜ん)」
 傷心を背負いながら、猫背でカーシャはいそいそと服を着始めた。
 と、カーシャが見ていないところで、ローゼンクロイツは一瞬ニヤリと笑った。
 そして、何事もなかった空気感が流れる。
 無駄な筋肉披露に飽きたカーシャはお茶を啜る。
「やはり茶に限る」
 てか、飲み物あるじゃん!
 しかもイチゴジュースじゃなくてもいいのかよ!
 ホントもうテキトーだな!
 そして、一服を終えたカーシャがビシッとマッスルポージング!
「妾の筋肉を見よーッ!」
 と、結局筋肉を見せることをやめなかった。
 こんな強制筋肉披露会がイヤで、ビビは教室を飛び出してルーファスを探しに行ったんだったりする。

 そのころ逃走を続け、学院を飛び出していた。うっかり女体化のことを忘れ。
 街中で立ち止まったルーファスは苦しそうな顔をした。
「うう、胸が重い……(引き千切れそうだし、なんだか擦れて……)」
 思春期あたりで女子が急に足が遅くなったりするアレですね!
 周りを見回すと、人々の視線を感じた。まるでジロジロ見られているような感覚がする。
「(みんな僕の胸を見てる気がする)」
 まあ、たしかにそこに巨乳があれば見るのは当然!
 もはや脊髄反射的な反応と言ってもいい。
 が、女体化してしまっているという恥ずかしさで、必要以上に視線が気になっているということもある。
「(うう、恥ずかしい……)」
 学院方向を見渡し、さらに逆方向も見渡す。
「(戻ろうかな、でもまた彼や知り合いに会うかもしれないし。ここにいるのもイヤだし)」
 とりあえず学院に向けて歩いてみる。なるべく人と目を合わせないように、うつむきながら不安そうな顔で。
 しばらく歩くと、甘味料のよい香りが漂ってきた。
 ふと顔を上げると、クレープの販売馬車だ。
 秋の新作クレープののぼりが風でひらひら揺れている。
 瞬く間にルーファスの瞳が輝いた。
「チェックしてたのに忘れてた!」
 女体化する前からスイーツ好きの一面がある。
 さっそく短い列に並んでクレープを購入しようとする。
 秋の新作はマロンを使ったものや、
 どれにしようか迷いながら心が躍ってしまう。
 注文の順番が回ってきて、口を開こうとした瞬間、横から影が割り込んできた。
「ここは俺がおごるよ」
「げっ」
 思わずイヤな気持ちが声に出た。隠し事が苦手なので、思いっきり表情にも出ている。
「俺はチョコイチゴスペシャル。君は?」
「え、え〜っと(ここまで並んでいりませんとは言えないし、かと言ってここで答えたらおごられてしまう)」
 男性店員がニコニコと笑っている。
 ふとルーファスが振り返ると、後ろには列ができている。
「○○、いや、××、やっぱり△△!」
「じゃあ、○○と××と△△」
「え……(3つも頼まれた)」
 けっきょく新作クレープを3つ頼み、しかも流されるままにおごられてしまった。
 で、なんだかわからないうちに並んで街を歩いてしまっている。
 ルーファスの両手にクレープ2つ、ルシの手にも2つ。
 じーっとルーファスはルシのクレープを見た。
「(あのクレープを最初に食べたいんだけど)」
「俺のこと見つめてどうかした?」
 すっげぇ勘違い!
 シカト&気を紛らわせるため、ルーファスはクレープにがっついた。
「(美味しいけど味わえない。さっさと食べ終えて逃げよう。彼の持ってるクレープはどうしよう)」
 またルーファスがじーっと見ていると、ルシが微笑んだ。
「そのクレープも美味しそうだね」
 と言った唇が大きく開いて近づいてくる。
 間近まで迫ったルシにドキッとしてルーファスは一歩下がる。
 パクっ。
 ルーファスが食べかけだったクレープを一口。
 顔を離したルシは、唇の端についたクリームをぺろりと舐め取って、ニッコリと微笑んだ。
「美味しいね」
 瞳を丸くしてルーファスは地面に足を引きずりながらどんどん後退る。
 ルーファスの脳内でエコーするフレーズ。
 ――関節キス、関節キス、関節キス、関節キッス♪
「ひゃ〜ん!」
 不気味な声をあげて、顔を真っ赤にしたルーファスが逃げ出す。
「(もう耐えられない……居ても立っても居られない、穴があったら生き埋めになって死んでしまいたい)」
 ズボッ!
 忽然とルーファスの姿が消えた。
「いたたた……」
 ルーファスが見上げる青空が広がっていた。
 穴だ、工事通の穴に落ちたのだ。
 どこからか声が聞こえる。
「オーライ、オーライ!」
 なにかを誘導するかけ声だ。
 穴の仲で立ち上がったルーファスは、壁に手を掛けた。
「(微妙に高い、登れるかな)すみませ〜ん、だれか……イッ!?」
 言葉を詰まらせて眼を剥いた瞬間、空から生コンクリートが振ってきた。
「ぎゃぁぁぁっ!」
 埋もれるルーファス。
「死ぬ、死んじゃう!」
 望みが叶ったじゃないかルーファス!
 もう目も開けられない。口を開くとこもできない。ただ必死にもがきながら、手を高く地上へと伸した。
「つかまれ!」
 だれかの声。
 生コンからかろうじて出ていたルーファスの手をだれかがつかんだ。
 ルーファスの腕が引っ張られるが、まったく持ち上がらない。
「大変だべ、だれか埋まっちょる」