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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

INDEX|89ページ/104ページ|

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 てゆーか、男の子です。
 ササッとクラウスはルーファスの横に立ちそっと耳打ちをする。
「彼、ルーファスのことレディだと思っているのかい?」
「まあ、なんていうか、事故っていうか……(体は女の子だし)」
 コソコソ話をする二人にルシがニコニコしながら近づいてきた。
「仲がいいんだ、王様と」
 キリっとした目つきでクラウスは一瞬ルシを見た。
「(敵意を感じた)ただの友人だ」
 なぜか慌てるルーファス。
「そ、そうだよ、だたの友人だよ!」
 なぜか焦る。
 変なところで焦るものだから、すっごい疑惑の眼差しを向けられた。
「てっきり、王様の妾(めかけ)かなって」
 クラウスのこめかみがピクッと動いた。
「妾とは失礼な。そもそも僕は未婚だ」
「王様は女遊びがお盛んだってもっぱらのウワサだから」
「どこの噂だ!」
 身を乗り出して声を荒げたクラウスをルーファスが小声でなだめる。
「まあまあ、ほらクラウス女の子に優しいから勘違いされてるっていうか(実際、ストーカーっぽい子とかに付きまとわれたり、自分が彼女だって名乗り出る子も多いし)」
 親密なふたりのようすをルシは表面的な笑みで見つめている。
「ルーファスさんが王様のモノじゃないなら、別に俺がモーションかけてもいいよね?」
 モーション――異性の気を惹こうとする振る舞いのこと。うん、わかっていたけど確定だね!
 コイツ、ルーファスに惚れたなッ!
 ゾゾゾっと寒気がしてルーファスは後退りクラウスの後ろに隠れた。このクラウスを頼る行為が、絶賛疑惑を強めちゃいます。
 ルシが強引に出た。ルーファスの腕をつかんだのだ。
「院内にあるカフェで休まない?」
「えっ、えっ、えええ(な、なんだこの状況)」
 言葉に詰まるルーファスに変わって。クラウスがルシの腕を振り払った。
「レディはもっと優しく扱いたまえ」
 何気ない一言だったが、ルーファスの胸にズキューンと来た。
「(クラウスが僕のこと、レ、レディって……クラウスまでそんな目で……)」
 身体の芯から発汗してきて、顔は蒸気を噴きそうなほど真っ赤だ。心臓のバクバクが止まらない。
 そして、気づけばルーファスはクラウスの袖をギュッと掴んでいた。
 無意識だった行動にハッとして手を離すと、クラウスも気づいて微妙に顔を赤らめた。ふたりを包む微妙な空気。恥ずかしいやら、気まずいやら。知らない第三者からすると、どう映るのだろうか?
「俺とはダメなのかい?」
 寂しげな瞳。子犬の眼差しのような、キラキラうるうるの目からビーム攻撃。
 思わずルーファスはたじろいだ。
「ちょっとだけなら……」
 と折れたルーファスを身体ごとクラウスが遮る。
「いや、僕と約束があるんだ」
 ねぇーよ!
 ルーファス初耳。
「えっ、そんなのあったっけ?」
 ないない。
 クラウスがソッとルーファスに耳打ちする。
「彼とデートしたいのか? 僕に会話を合わせろ」
「デ、デデデ、デート!」
 目と口を丸くして声を張り上げたルーファス。ぷしゅーっと頭から湯気が出てふらっとしたところを支えられた。
 ルシがクラウスを睨む。
「離せよ」
「君こそ」
 クラウスは精悍な瞳で返した。
 ルーファスはサンドイッチ状態で二人に支えられたのだ。
 先に引っ張ったのはルシ。
「俺といっしょに」
 負けずとクラウスも引っ張り返す。
「僕と来るに決まっているだろうルーファス?」
 綱引きの縄状態でルーファスは両手を右へ左へ引っ張られる。
「ちょっと二人とも……(なにこの展開、男二人が僕を取り合ってる)」
 ポッと頬を赤らめ恥じらうルーファス。
 ルーファス、ルーファス正気を保て!
 おまえは男だッ!
「イチゴケーキと飲み物のセットおごるよ!」
 ルシが声を荒げながら今まで以上にグイッと引いた。
「店ごと、いや国中のケーキを買ってあげよう!」
 クラウスが乗せられてる。魔導産業で国を豊かに導いている名君が、国中のケーキとか暴言過ぎる!
 ルーファスは眉尻を下げてクラウスの身体を揺さぶる。
「クラウス、クラウス、君はそんなキャラじゃないだろクラウス!」
「はっ(僕としたことが、冷静さを欠いていた)」
 ふっとクラウスがルーファスから手を離した瞬間、ルシがグッと引っ張り抱き寄せた。
 熱く逞しい胸板に顔を置く形になったルーファス。
「(鍛えられてる)」
 同じメガネでもエライ違いだ。もやしっ子ルーファス。
 トク……トク……。 
 ルーファスの耳に微かな音が聞こえた。
 耳をすませば音は大きくなる。
 ドクドクドク……。
 脈打つ心臓の音色。早く力強い。
「(もしかして僕のことを想って……)」
 なぜかルーファスは胸がキュンとした。
 顔を上げるとルシがメガネの奥の真剣な眼差しでクラウスを見ている。猫背なので気づかれにくいが、ルーファスもそこそこ高身長だがルシはさらに長身で、こんな間近で殿方の顔を見上げるなんてドキドキものだ。ルーファスは男ですが。
 クラウスが腕を伸してルーファスの手を握った。
「僕と来るんだルーファス!」
 ぽわ〜んと脳内お花畑な表情をしているルーファスにクラウスの声は届かなかった。
 勝ち誇った顔でルシがクラウスを見下ろす。
「しつこいよ王様、彼女は僕といっしょに行く運命なんだ」
 運命って!(笑)
 恋愛トキメキキーワードの上位にランクすると共に、スイーツ(笑)な雰囲気も同時に醸し出される魔法の言葉。今のルーファスにはキュンキュンきた。
「(イケメンな彼とデート……きゃは♪)」
 完全にキモイですルーファスさん。
 ルーファスは正気じゃないし、ルシは正気だけど大幅な勘違いに気づいてないし、クラウスは正気に返ったかと想われたが、剣の柄に手が触れそうな位置まできてる時点で冷静じゃない。
 3人とも空気がマトモじゃない!
 そこへ新たな風が吹いた。
 小走りでピンクのツインテールがぴょんぴょんやって来た。
「ルーちゃんおそ〜い、カーシャさんがカンカンだよ……(ってなにこの状況)」
 一触即発な感じで乙女(男)を奪い合う構図になっている殿方ふたり。と、その片っぽの殿方に抱き締められているルーファス(絶賛心は乙女)。
 そのようすを見たビビがボソッと。
「キモッ」
 静かな廊下にはその発言は遥か遠くまで響き渡った。
 ルーファスとクラウスがハッと我に返る。
 そして、ルーファスはルシの身体を押し飛ばし、ビビをチラ見すると、真っ赤な顔を両手で覆い隠し小走りで駆けていった――内股で。
 ぜんぜん我に返ってねぇッ!!
 その後ろ姿にクラウスは片手を切なそうに伸した。
「……ルーファス」
 こっちもぜんぜん夢から覚めていないようだ。他人からしたら悪夢だ。
 ルシは呆然としている。
「なぜ逃げるんだ」
 同性だから。
 その事実を知らないルシはルーファスの後を追ったのだった。