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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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トランスラヴ2


 小銭戦争のやりとりですっかり忘れていたが、現在女体化絶賛公開中!
 ルーファスはハッとして廊下の影に隠れた。
 このフロアには実習室も多くあるせいで、放課後も生徒たちがチラホラいる。
 学園都市と言ってもいいほどの生徒在籍数なので、知らない顔とすれ違う確率のほうが高い。とは言っても、知り合いじゃないからって、今の姿はあまり見られたくないものだ。
 今回のミッションを確認しよう。
 目的は二つ。
 その1、飲み物を買ってくる。
 その2、パラケルスス先生に助けを求める。
 飲み物は学院内のいたるところに自販機があるので、ミッションレベルは高くないだろう。ただ4本も持ち歩くのが大変そうだ。
「(しかもローゼンクロイツはコーラって)」
 炭酸は振ると危険だ。
 廊下をそろりそろりと気配を消して進む。
 ルーファスはビクッと背中をさせて振り返った。後ろから男子生徒が歩いてくる。
「(バ、バレないかな)」
 男子生徒に背を向けながら、壁の掲示物を眺めるフリをしてやり過ごす。
 とくに男子生徒はルーファスには気を止めずに歩き去っていく。その後ろ姿をチラ見したルーファスは、ほっと胸を撫で下ろして溜息を吐いた。
「(心臓に悪い)」
 ひととすれ違うたびにこの調子だったら、かなりの心的負担だ。加えて、こんな調子じゃいつまで経ってもミッションをクリアできない。
 さっさとミッションを終わらせてしまいたい。
「クイック!」
 一時的に瞬発力を高め高速移動を可能にする魔法を唱えた。
 ルーファスが廊下をダッシュする。
 そこの角を曲がれば自販機はすぐそこだ!
 一気にカーブを曲がった瞬間、目の前に人影が飛び込んできた。
 ぼにょ〜ん!
 ルーファスの爆乳に男子生徒がダイビング!
 相手は尻餅をついて倒れ、ルーファスは咳き込んだ。
「げほっ、げほげほっ……いった〜」
 声帯も変わっているため、あげた声まで女の子っぽい。
 高速移動していたためかなりの衝撃で、ルーファスは胸を押さえてうずくまった。
「(胸を潰されるとすごい痛い……はっ!?)」
 押さえている胸が自分の胸であって自分の胸でないことに、ハッと気づいて顔を真っ赤にして離して立ち上がった。
 頭から湯気を出して呆然とパニックになっているルーファスには、男子生徒が頭を下げながら声をかけてきた。
「すみません! 大丈夫でしたか?」
 ポロシャツにジーンズ姿のラフな格好で、腰のバッグにはいろいろな魔導具が詰め込まれていた。
 そして、顔を上げた彼はサラサラの髪を靡かせながら、メガネの奥の優しそうな瞳で笑った。
 キラリーンと光る白い歯。
 その精神的なまぶしさにルーファスはたじろいだ。
「だ、大丈夫です(人間と接触してしまった)」
 さっさとこの場から立ち去りたい。
 逃げるように背を向けて小走りで駆け出すルーファスに声がかけられた。
「待って」
 呼び止められたが振り返りたくない。声すら出したくない。できれば関わりたくない。
「キミの名前は?」
 名前を聞くなんて興味津々過ぎる。
 本名を名乗れるわけもなく、気の利いた偽名も浮かばず、ルーファス逃亡!
「マギ・クイック!」
 ルーファスは魔法を唱えた。マギはメギを最上級として、メギ・マギ・ラギ・ピコの上から2番目。ルーファスが扱える中では高等だ。
 目にも止まらぬ早さで一気に廊下を駆け抜け、クイックの効果が切れた瞬間、今までの勢いに体がついていけず、ルーファスはロケットのようにぶっ飛んで壁に激突した。
「ぶべっ!!」
 潰れたトマトにはならずに済んだが、全身を強打してかな〜り痛そうだ。
 力なく床に倒れたままルーファスは動けない。
「(死ぬ)」
 学院内で壁にぶつかって死ぬなんて、しかも女体化したまま。
「まだ死ねない!」
 声をあげてバシッと立ち上がった。
 女体化したままなんてイヤすぎる。友人知人家族にまで、ルーファスは女として死んだと心に刻まれてしまう。
「(とくに父に知られたらと思うとゾッとする)」
 ただでさえ見放されて勘当寸前なのに、女になりましたなんて知られたらどうなることか。
「(世間体とか気にするひとだから、絶対に存在自体が歴史から抹消される。お墓も建ててもらえなくて、モンスターのエサにされて骨まで溶かされるとか)」
 最悪すぎる。
 そうならないために早く男に戻らなくては!
 と、その前に、ルーファスは床に落ちていた小銭に気づいた。壁に激突したときに、預かっていた小銭を落としてしまったらしい。
「ジュースなんか買ってる場合じゃ……」
 ぶつぶつつぶやきながら小銭を拾い、最後の1枚に手を伸したとき、男の手が伸びてきてルーファスの手に触れた。
 ゾゾゾっと寒気がして素早く手を引いて、顔を上げて見るとさっきの男子生徒がいた。
「はい、これで全部?」
 最後の1枚を拾った男子生徒が、さわやか笑顔で小銭を差し出している。
「ありがとう……ございます」
 手のひらを出して小銭を受け取った瞬間、手と手が触れた。
 ルーファス滝汗!
 心臓がバクバクして、その場から動けなくなってしまった。
 男子生徒は輝く眼差しでルーファスを見つめている。
「俺の名前はルシ・ハグラマ、魔導工学科の4年生。キミは?」
 魔導学院は4年生から魔導普通科と魔導工学科に分れる。ちなみにルーファスは魔導普通科の4年生だ。
 また名前を聞かれてしまって、やっぱり気の利いた偽名も浮かばない。
 そして再び逃走!
「マギ・クイック!」
 目にも留まらぬ速さで廊下を駆け抜けたが、途中で筋肉が悲鳴を上げた。この魔法は身体の負荷がハンパないのだ。
 グギッ!
 足首をひねってルーファスが転倒。
 そこへちょうど人影が通りかかった。
「危ない!」
 叫んだルーファスに顔を向けた人影。
 ぼにょ〜ん!
 相手の顔面に爆乳アタックが決まった。本日2度目である。
 尻餅こそつかなかったが、片手を廊下に突いて、そのまま立ち上がろうとしている人影。
「廊下を走るのは危険だよ、お嬢さ……ん?」
 途中まで言いかけて唖然とした。
「ルーファス、ルーファスか!?」
 知り合いだった。爆乳アタックを食らわせてしまったのは、同級生のクラウスだ。
 その爆乳をガン見して驚くクラウスは、ハッとして顔を赤らめて背けた。
「(思わずレディの胸を直視して……レディではなくルーファスか)どうしたんだルーファス?」
「あはは、どうしたって……なにが?」
 言い訳すら思い付かなかった。
「なにがって、その……胸になにか入れているのか?」
「ちょっと腫れちゃって」
「声も高いというか、体付きも丸みがあるというか……」
 奇異なモノを見るような目つき。完全に疑っている。
 二人の間に微妙な空気が漂っているところへ、ルシが追いかけてきた。
「ハァ、ハァ……まだ名前を……」
 肩で息を切って膝に両手をついている。
 クラウスはルシを一瞥した。
「だれだいルーファス?」
 ルーファス。
 たしかにそう言った――ルーファス。
 気づいたルーファスはマズそうな顔をした。
「げっ(聞き逃してないかな)」
 聞き逃すハズがなかった。
「ルーファスっていうんだ。まるで男の子みたいな名前だね」