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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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目覚めのキスは新たな予感2


 巨大なマジックハンドは街中でかなり目立つ。しかも、そこにひとが握られている。
「あのぉ、降ろしてくれないかな?」
「逃げないと約束して、ワコクに同行してくださるなら」
 というルーファスとセツの会話。ほぼ同じような内容ですでに10回ほどやり取りをしていた。
「トイレ行きたいから降ろしてくれないかな?」
「我慢してください」
「どこまで?」
「ワコクまで」
「それはさすがに無理です」
 今のところ逃げ出すチャンスはなさそうだ。
 ルーファスは話題を変えることにした。
「ところでどうやってワコクまで行く気?」
「この都には空港があったはずです」
 三大魔導大国の首都である王都アステアは、都市としての発展もめざましく、多くの公共施設のインフラも進んでいる。
 交通面での整備は、王都の西を流れる大運河シーマスにある港から船が出ており、都市の東西南北と中心にあるアンダル広場の5ヶ所に駅があり、これから向かおうとしているアステア国際空港は第2東地区という運河の向こう側にある。
 現在位置から空港まではかなり遠い。
「走っていくには遠いよ?」
「道をよく知りませんから、馬車を拾おうと思います」
「今すぐじゃなくて、旅行の準備とかしたりして、あしたとかじゃダメかな?」
「時間がありません」
 もうセツの気持ちは頑なだ。
 今は他人の気持ちなど考えない。ルーファスの気持ちすら今はいい。今は自分の気持ちのまま行動する。
「(わたくしは母上のように後悔しない)」
 母?
 セツの母に過去になにかあったのか?
 どうやらセツを突き動かしているのは、ルーファスへの想いだけではなさそうだ。
「セツが本気なのはわかるけど、私よりもいいひと見つかると思うんだよね。自分で言うのもなんだけど、そこら中にいると思うんだ」
「ルーファス様はわたくしが自分で決めたひとです」
「次に決めたひとが見つかると思うよ」
「次という選択肢がなかったらどうします?」
「それは困るなぁ」
「わたくしはルーファス様を強引にでも連れて逃げることにしました」
「でもさ、今回の場合は次があると思うよ。絶対、必ず(たぶん)」
「今はルーファス様のことをお慕い申し上げております。それがすべてです」
 今はそれがすべて。今はセツの気持ちが変わることはないだろう。なにか切っ掛けがなければ、もしくは刻が過ぎ去らなければ、ひとの気持ちは変わらない。
 恋は盲目!
 次の恋を考えているようなら、もうすでにその恋は終わっているのだ。
 逃亡を続けていると、セツたちの前に人影が立ちはだかった。
「ストォーップ!!」
 ビビではない。
 スーパーの袋を片手に持った巨乳の女。残念ながら人妻主婦ではない。カーシャだった。
 思わず足を止めてしまったセツ。
「いきなり大声で驚いてしまったではありませんか」
「どういう状況なのだ?」
 変な物を見るような目つきで、カーシャはマジックハンドと捕まってるナマモノを確認した。明らかに変だ。
 自力で逃げ出せないルーファスの頼りはカーシャしかいない。
「(素直に助けてくれるかな?)」
 頼るには不安いっぱいだった。
 ルーファスは不安を抱えながらも、助けを求めることにした。
「じつはさ、セツが私と結婚するためにワコクに連れて行こうとしてるんだ。だから助けてよカーシャ」
「嫌だ」
 即答。
「そんなこと言わないでよぉ、カーシャぁ(ぐすん)」
「(嫌だと思ってなくても言いたくなってしまう妾の悪いクセ……ふふ)条件によっては助けてやらんこともないが(どうせヒマだし遊んでやるか)」
「どんな条件?」
「ここにカレーの材料がある。が、うっかりルーを買うのを忘れてしまった。甘口のルーを買ってウチに届けてくれたら、そのあとで助けてやろう」
 ……あと?
「今捕まってるんだけど?」
「見ればわかる」
 平然とカーシャはルーファスの問いに答えた。
 助ける気ナッシング!
「行きましょう、ルーファス様」
 時間の無駄をしたと言わんばかりの溜め息を漏らしてセツが歩き出す。
「まてぇい!」
 ヒマ人カーシャ立ちはだかる。
 しかしセツシカト!
 スタスタとセツはカーシャの横を通り過ぎようとした。
「だからまてぇい! っと言っておろうが!」
 右手にニンジン、左手にはタマネギを構えて立ちはだかるカーシャ。明らかな不審者だポーズだ。
 こんな不審者とお友だちだと思われるとアレなので、さらにセツの足は速まってこの場から立ち去ろうとした。
 しかし、逃げようとする相手を逃がすハズがないのだ。そういうひねくれ者のカーシャなのだ。
「ライララライラ、大地の加護を受けしお野菜さんたちよ以下略、精霊ドリアードとか力を貸したまえ以下略!」
 呪文詠唱がかなりテキトーだった。通常ならこんないい加減な詩で魔導が発動するはずがない。だが、そこはいにしえの魔女カーシャだった。
 ニンジンとタマネギがカーシャの手を離れ巨大化し、なんと手と足がニョキニョキっと生えてきたではないか!?
「ふふふっ、ニンジンさんとタマネギさんから逃げ切れるか?」
 もはや勝ちを確信して不敵に笑うカーシャ。
 背丈は大人と同じくらい。ニンジンさんとタマネギさんにセツは挟み撃ちされてしまった。
 セツは眉をひそめてよろめいた。
「うっ……わたくしが大のタマネギ嫌いだと知ってのことですか!」
「(知らん)ふふっ、敵の弱点を突くのは兵法の基本中の基本!」
 知らないのかよっ!
 相変わらず今日のカーシャさんはテキトーである。
 しかし、たまたまタマネギが弱点というのは、セツにとってピンチである。
 そして、マジックハンドに捕まっている上空のルーファスもゲンナリしていた。
「ニンジン苦手なんだけど」
 ルーファスはニンジン嫌いだった!
 …………で?
 たしかに嫌いな食べ物に追い詰められたセツ&ルーファスペアだが、嫌いな食べ物が巨大化して目の前に立ちはだかってるからって、食べなきゃいけないわけでもなし、だからどうしたっていう状況である。冷静に考えれば。てゆーか、野菜さんたちはどの程度の戦力なのだろうか?
 カーシャがビシッとバシッとセツを指差した。
「ゆけっ、ジアリルスルフィドアタック!」
 タマネギさんがセツにビュッと液体を飛ばした。
 素早くそれを交わしたセツ。が、液体はすぐに気化して、猛烈な目の痛みでセツは目元を押さえてしまった。
 ジアリルスルフィドとはつまり硫化アリルのことである。だからその硫化アリルってなんじゃって話になるのだが、つまりタマネギを切ると目に染みる成分である。この成分は加熱すると甘みに変わり、カレーを美味しくしてくれたりするのだ。
 目つぶし攻撃を受けたセツは前が見えずに逃げることもできない!
 カーシャが笑う。
「ふふふっ、思い知ったかジアリル以下略攻撃を!」
 そーゆーカーシャも目元を押さえてフラフラしていた。すっげーダメ攻撃だ。
 このタマネギガスは、さらになんちゃってテロ攻撃として広がろうとしていた。
 辺りを歩いていた人々が目元を押さえながら次々と倒れていく。それを見た人々は悲鳴をあげたりして、さらにパニックは広がる。
「テロだ!」