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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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目覚めのキスは新たな予感1


 クラウス魔導学院に潜む影。
 ササッと物陰に隠れて今日もストーキング。
 学院で有名なストーカーといえば、ローゼンクロイツの追っかけアインだ。2代目として有名なのがユーリ。そして、このごろウワサになっているのがセツだ。
「嗚呼、ルーファス様。甘味処の割引券を手に入れたのでお誘いしたいのに……(小悪魔がちょろちょろと邪魔ですわ!)」
 物陰に隠れていたセツの遠い視線の先で、ちょろちょろとルーファスの周りを小走りしているビビ。
「ねぇ、ルーちゃんルーちゃん、割引券もらったから食べに行こうよ。ジャジャーン!」
 効果音を高らかに上げながらビビは甘味処の割引券を出した。
 よ〜く目を凝らしてセツはビビの手元を見つめた。
「あれは同じ割引券!」
 しまった、先を越された。
「いいね、ちょうど小腹も空いてたし」
 と、ルーファスはセツの気も知らないで答えている。
 悔しそうにセツは袖口を噛みしめた。
「キィー! おんどりゃあ、血の雨を降らせたる!」
 ゴリラの形相で鉄扇を構えたセツ。
 そこへとある男が声をかけてきた。
「探したぞ」
 ゴリラが振り返った。
 あ、違った。ゴリラの形相のままセツが振り返った。
 思わずビビって後退った大の男は、武術大会で知り合ったハガネスだ。
 ハッと気づいたセツは苦笑い。
「おほほほ、ハガネスさんではありませんか?」
「あ、ああ……」
 完全にハガネスはドン引きしている。
 セツは取り繕うと必死になって、辺りを見回し適当な話の種を探した。そこで目に入ったのが、ハガネスが片手に持っていたトロフィーだ。
「それは?」
 白銀に輝くトロフィー。
「こないだの大会のトロフィーだ」
 先日の武闘大会の優勝者に捧げられるはずだったトロフィーだ。
「どうしてそれをあなたが?」
「大会は騒ぎで中止になったが、あの騒ぎを収めた功績ということでアステア王の使者がこれをもって来たんだが、俺にはこんな物をもらう資格なんてないから断ろうと思ったが、おまえのことが頭に浮かんでな」
 ハガネスはトロフィーをセツに差し出した。
「そうですか……」
 セツはトロフィーをつかんだが、手元に引き寄せようとはしなかった。その表情は暗い。
「どうしたんだ?」
「い、いえ、ありがとうございました。これでやっと故郷に帰ることができます」
 力強くトロフィーを受け取ったセツは、その顔を見られないように空かさず頭を深々と下げ、逃げるようにこの場から立ち去った。
 セツの背中を眺めながら首を傾げるハガネス。
「わからん、悪いことしたか?」
 悪気がなくても、物事が悪い方向に向かってしまうこともある。
 まさかハガネスがトロフィーをセツに渡したことで、王都アステアを巻き込む大事件になるとはッ!
 言い過ぎました。
 ルーファス周辺で巻き起こるドタバタ劇になるとはッ!

 笑顔爆発でビビが店内から出てきた。
「美味しかったぁ!」
 その後ろから、空っぽのおサイフを逆さに振りながら、ルーファスも店内から出てきた。
「割引券につられて逆に高くついたなぁ」
 それが店側の戦略だ。
 しょんぼりと肩を落とすルーファスの顔をビビが下から覗き込んだ。
「どうしたのルーちゃん、元気ないのぉ?」
「(ビビが片っ端から食べまくるからだよ)」
 とは口に出しては言えなかった。
「そうだ!」
 と、ビビがなにかをジャジャーンと取り出した。
 笑顔のビビ。
 表情の曇るルーファス。
 ビビの手に握られた10パーセントオフの紙切れ。
「駅前に新しいケーキ屋さんができたんだって!」
「却下」
「えーっ、即答!?」
「だってもうお金ないよ」
「無駄遣いばっかりするからだよぉ」
「(……ひとにおごらせておいて)」
 ビビと出会って以来、なにかといつもおごらされているルーファス。そういえばユーリにもよくたかられている。二人ともルーファスに召喚された当初、無一文だったため、その後もズルズルとルーファスにおごらせる構図ができたのだ。
「ルーちゃん仕送りで生活してるんだから、もっとお金は大切に使わないとダメだよ」
「そういうビビはどうなのさ?」
「う……」
 言葉に詰まるビビ。
 現在ビビも似たような生活だ。
「私は親に仕送りしてもらってるけど、ビビはパラケルスス先生にお小遣いせびってるらしいじゃないか」
「違うよ、くれるからもらってるだけだもん。おじいちゃんも孫ができたみたいでうれしいって」
「学生寮だって裏技使ってタダで使ってるんだし、ところで学費とはどうしてるの?」
「さぁ?」
「そこ『さぁ?』で済む問題じゃないでしょ」
 二人は話しながら街を歩き、ルーファスはビビの顔から目を離し、前方に顔を戻したときった。
 立ちはだかるセツ。
「大事な話があります――ルーファス様」
 周りを歩いていた一般人たちも足を止めてしまうほどの、気合いのこもった真剣な眼差しでセツはルーファスを見つめた。
 まだ話も聞いていないのに、ルーファスはどっと汗をかいた。
「な、なんでしょうか?」
 思わず敬語だ。
「わたくしといっしょにワコクに来てください」
 ガーン。
 ショックを受けたのはルーファスではなく、その横にいたビビだった。
 そんなビビのようすをセツはチラッと見て、すぐにルーファスへ視線を戻した。
「ルーファス様との結婚をあきらめておりません。ぜひ、ルーファス様にはわたくしの両親に会ってもらいたいのです」
「ちょ、ちょ、ちょっとぉ!」
 慌ててビビがルーファスを押し退けて前へ飛び出してきた。
 キリッとセツがビビを睨む。
「部外者は邪魔です」
「部外者じゃないもん!」
 ほとんど脊髄反射的にビビが言い返した。
「だったら何者だというのですか?」
「ともだち代表!」
「婚約者なら話になりますが、ただの友達なら黙っていてください」
「セったんだって婚約者じゃないクセに!」
「わたくしは少なくとも元婚約者です!」
 なんだかルーファスを置いて二人が白熱している。
 セツの後ろにはモヤモヤと角の生えた鬼神が見えるような気がするし、ビビの後ろには大きな鎌を持ったドクロさんが見えるような気がする。
 ちなみにドクロさんは一般人に取り憑くとかなりヤバイっていうか、死んじゃうが、ビビの実家の守護神なのでビビには無害だ。
 ビビがズンと一歩前へ!
「いつどこで?」
「ルーファス様と接吻を交わし、掟が無効になるまでの間です!」
 あのときのルーファスとセツのキスシーンがビビの脳裏に浮かんだ。
 馬乗りのセツに押し倒さているルーファス。ふたりの唇が……。
 カーッとビビの顔が沸騰した。
 セツがルーファスに近づいてくる。
 ビビがルーファスの前に立ちはだかり両手を大きく広げた。
「だったらルーちゃんの今の婚約者はアタシだもん!」
「ええええーっ!?」
 叫んだのはルーファス。裏返った叫び声で歩行者たちが立ち止まって振り向いた。
 ハッしてビビは我に返った。
「(うっかり変なこと口走っちゃった、ヤバイどうしよう!)」
 慌ててそのままルーファスに耳打ちをする。
「ああでも言わないとセッたんが納得しないと思って。ルーちゃんとアタシただのともだちもんね、ね!」