魔導士ルーファス(2)
古き魔晶の闇3
必死こいて逃げたルーファスだったが、ふと立ち止まってハッとする。
「逃げちゃダメじゃないか!」
すぐに戻ろうとはしたが、足がすくんで動かない。
「(僕になにができるだろうか……だって相手はテロリスト。クラウスもクラスのみんなも人質になってるって。さっきの放送だってウソだったんだ、本当は学院のシステムが乗っ取られてて……僕ひとりじゃなにもできないよ)」
気分が落ち込んでいたそのとき、明るい声が響いてきた。
「ルーちゃ〜ん!」
ピンクのツインテールを振り乱して駆け寄ってくるビビの姿。
「ビビ!」
「ルーちゃん探したよぉ!」
その明るさにルーファスも息を吹き返した。
「よかった、無事だったんだねビビ!」
「ルーちゃんこそお腹が痛くて野垂れ死んでるじゃないかってドキドキだったよぉ」
「そんなことよりほかのみんなは無事なの?」
「ほかのみんなって?」
「人質にされてるクラスのみんなのことだよ」
「ええ〜〜〜っ! なにその話聞いてないよぉ!!」
たしかにビビが知らないのも当然だった。
「えっ……逃げて来たんじゃないの?」
「アタシはルーちゃんのことが心配で授業サボって来たんだけど?」
「クラウスがテロリストの女に捕まったのも見てない?」
「ええ〜〜〜〜っ! テロリストって聞いてないよそんなの!!」
聞いてなくても現れるテロリスト。
スパイダーネットがルーファスとビビに覆い被さろうとしてた。二人は突然のことに動けない。
「ファイア(ふあ)」
炎によって消滅させられたスパイダーネット。
ルーファスが声をあげる。
「ローゼンクロイツ!」
二人を救ったのはローゼンクロイツだった。
テロリストの数は3人。3対3だ。ルーファストビビを戦力に入れたとしたらだが……。
再び魔法を発動しようとしたテロリスト。だが発動しない!?
「なにが起きた!?」
驚くテロリストのローゼンクロイツはフッとあざ笑った。
「……トラップ(ふにふに)」
魔法を発動しようとしたテロリストの足ともで輝く魔法陣。魔法陣を踏んでしまったテロリストと残る2人も、その効果を瞬時に悟った。拘束と魔力封じを同時に兼ねる魔法陣だったのだ。
残された二人のテロリストは顔を見合わせうなずき合った。
「やむを得ない、攻撃魔法で弱らせてから捕らえるんだ。絶対に殺すなよ!」
「水色の女をまずは仕留めろ!」
標的から外されたルーファストとビビはほっと一安心。
「ルーちゃん助かったね♪」
「うんうん、私たち強そうに見えなくてよかったね」
「てゆかさ、ローゼンのこと女だって、あはは」
「あはははは」
のんきな二人とは対照的に、テロリストの二人はマジだ。
「ウォータービーム!」
「サンダーボール!」
水と雷の連係攻撃だ。相乗効果で威力が増す!
のんき、マジ。そしてローゼンクロイツはふあふあ!!
「フリーズ&スパークボディ(ふあふあ)」
同時に二つの魔法を操り、ウォータービームをフリーズで凍らせ、スパークボディで自らに電気の鎧を宿しサンダーボールを吸収した。
テロリストは驚きを隠せない。
「同時に2つの魔法を……なんというバランス感覚だ!」
「たかが生徒にこんな実力者が……これがクラウス魔導学院の実力かッ!!」
魔法の根源たるマナエネルギーは操るものであり、魔法の発動にはマナを安定させる必用がある。二つの魔法を同時に使おうとすると、互いの魔法が共鳴あるいは反発などをして、安定を乱されることになる。このことから同時に魔法を発動させることは高度な技術とされている。
スパークボディを纏っているローゼンクロイツから電流が放出される。
「エレクトリックショック(ふあふあ)」
駆け巡る電流が二人のテロリストの身体を突き抜けた。
「「ギャァァァァッ!!」」
感電した二人は即座に気を失った。
一段落したとことで、ローゼンクロイツは片手を上げて、
「じゃ(ふにふに)」
と、何気なく立ち去ろうとした。
「ちょっと待ったぁーーーっ!」
寸前でルーファスが呼び止めた。
「なんだいルーファス?(ふあふあ)」
「なんだいじゃなくて、なんで行こうとするのさ?」
「だってもう授業はじまってるじゃないか(ふにふに)」
「…………(まだ召喚実習室に行くつもりっていうか、まだ辿り着いてなかったんだ)あのねローゼンクロイツ、とっくに授業中止だから」
「……が〜ん(ふにゅ)」
目を丸くして驚いたローゼンクロイツだが、すぐに無表情に戻って何事もなく立ち去ろうとする。
「次の授業は教室だったよね(ふにふに)」
クラスに帰るつもりだった。
「待ってローゼンクロイツまだ話が!!」
必死でルーファスは呼び止めた。
ローゼンクロイツはわざとらしく溜息を吐いた。
「ふぅ(にゃ〜)ルーファス、話が長い男は嫌われるよ(ふにふに)」
「ごめんね話が長くて。そんなことよりも、午後の授業は全部中止だと思うよ」
「……ふ〜ん(ふにふに)」
あっさりした反応。
ビビはそんなローゼンクロイツを見て思う。
「(今度は驚かないんだ。やっぱりローゼンのことわかんないや)」
こんなやりとりに拘束されている残った1人のテロリストが痺れを切らせた。
「おい、俺のこと放置するなよ」
ルーファスはハッとした。
「そうだよ、テロリストだよ! ローゼンクロイツ大変なんだよ、学院がテロリストに占拠されちゃって、クラウスも捕まってるんだ!」
そこにテロリストが口を挟んできた。
「我々をテロリストなどといっしょにするな。我々秘密結社は平和団体だ」
これを聞いたビビは顔を膨らませた。
「平和団体がこんなヒドイことするわけないでしょ、ベ〜だ!」
あっかっべーのおまけ付きだ。
ビビに続いてルーファスも続けて反発する。
「私のクラスメートを人質にして、クラウスもどこかに連れて行こうとして、学院中のドアを全部ロックして、これのどこがテロじゃないんだよ! 変なロックのせいでトイレに閉じ込められて大変だったんだんだから!」
そう言えばまだ流してない。
テロリストとはテロリズムに基づくもの。政治目的のために暴力や恐怖に訴えるものだ。
しかし、この自称平和団体は認めようとしない。
「我々はテロリストではない。その証拠に任務遂行のための殺生は禁忌としている」
たしかにファウストも捕まったが無事だった。ルビーローズに遭遇したルーファスも、そして今も敵は殺傷ではなく、捕らえることを主としていた。
テロリストの態度にルーファスは苛立ちを募らせる。クラスメートが、学院のみんなが、そしてクラウスが危険に晒されているのだ。
「あなたたちはいったいなんなんだ! 目的はなんなんだ!」
「我々は徹底した秘密主義だ。組織名を教えることはできない。任務内容についてはさらに黙秘する」
なにか手がかりはないのか?
ビビは気絶していたテロリストを物色。
「通信機見つけたよ! これで外に助けを求めてみるね♪」
――だが壊れていた。
ローゼンクロイツの放った電流のせいだ。
だが、捕らえられているテロリストが壊れていない通信機を持っているかもしれない。
「通信機を持ってるなら出すんだ!」
ルーファスが強い口調で言った。
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)