魔導士ルーファス(2)
すると中庭の噴水近くで、前方からクラウスが歩いてくるのが見えた。紅い服を着た女といっしょだ。ルーファスはこの女がルビーローズだということを知らない。
クラウスは爽やかな笑顔でルーファスを出迎えた。
「やあルーファス。お腹の具合は良くなったかい?」
「えっ……クラウス、クラウスこと無事だったの?」
「無事ってなんのことだい?(ルーファス、僕に構わず行くんだ!)」
「だってファウスト先生の話だと、クラウスが狙われているとかなんとか……で、そっちの人は?」
クラウスが爽やかに笑っているせいで、まさかこの女が事件の張本人とは思いもしなかったのだ。
ルビーローズはクラウスに余計なことをしゃべらせたくなかった。
「(あの男もう見つかったのね。情報が広がるのは不味い、隙を見てこの男も拘束しなければ)わたくしは新しく赴任してきた教師です」
「どうもはじめましてルーファス・アルハザードです」
「(国防大臣の息子ね)ラ・モットと申します」
「どうもどうも、これからよろしくお願いします。――じゃなくて、そんなことより学院中のドアがロックされちゃって大変なんだけど!!」
「そのことなら……」
ルビーローズが理由をつけようとしたところに、ちょうど校内放送が流れた。
《防御システムの誤作動がありました。復旧までにはしばらく時間が掛かりそうですので、生徒のみなさんは教師の指示に従って騒がずに待機していてください》
情報の操作。
事件などが起きたとき、ひとは情報が得られないことによりパニックを起こす。嘘の情報でもよいので、何かしらの理由があればいったんは騒ぎの大きさを小さくすることができる。
ルビーローズは微笑んだ。
「今の方法の通りです」
クラウスも否定を口にすることはできなかった。
だが、クラウスは手をこまねいてはいなかったのだ。
クラウスとルビーローズの背後の空中、そこに噴水の水を使った文字が描かれる。
『ルーファスこの女はテロリストだ、クラスメートが人質になってる!』
水文字によってクラウスは秘密裏に伝えた。
「テロリストだって!?」
だがルーファスが口に出してしまって水の泡。
本当にどーしょーもないルーファスだ。
すぐにルビーローズが動いた。
「スパイダーネット!」
拘束魔法の1つ。蜘蛛の巣状の魔法の糸がルーファスを捕らえようとする。
へっぽこなルーファスにも得意なことがある。
逃げること!
紙一重でスパイダーネットをかわしたルーファス。
だが全身で飛び退いた拍子に腹から床に落ちて強打。
「うっ……(肋骨打った)」
痛みで休んでいるヒマはない、次のスパイダーネットが飛んできた。
今度は逃げ切れない。
苦渋を浮かべクラウスが動く。
「ファイア!」
クラウスの手から放出された炎によって焼かれるスパイダーネット。
空かさずクラウスが叫ぶ。
「逃げろルーファス!」
すぐにルーファスは立ち上がって逃げた。クラウスを助けるという目的を忘れ、ルーファスは逃げたのだ。
ルビーローズは深追いをしなかった。
「閉じ込められていない関係者が少なからずいることは作戦に織り込み済みよ」
下手に追撃して真の目的をおろそかにはしない。手中にはクラウスがいる。
「次はないわよクラウス?」
人質がいるという再度の警告。
警告で済んだということは、クラスメートはまだ無事だということだった。
しかし、少しも安堵できない状況が続いていることは変わりなかった。
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)