魔導士ルーファス(2)
伝説のドラゴンスレイヤー3
先に集合場所にいたセツが、突然頭を下げてきた。
「ルーファス様申しわけありません」
「えっ、なに!?(謝られる覚えがないんだけど……むしろ僕のほうが)」
「試合の直前になって逃げたのではないかと、疑ってしまいました。嗚呼、ルーファス様の愛を疑ってしまうなんて、夫の帰りを待つ妻として失格です」
ルーファスはなにも言えなかった。だって逃げようとしてたから。
とにかく4人揃って予選に出場することになった。
巨大なゲートが開かれ、円形闘技場への道が開かれる。
ルーファスは胸に張った赤いシールを確認した。これを奪われれば負けだ。
このシールには番号も書かれており、それと対応したサークルが闘技場内の地面に描かれている。そのサークルがスタート位置となる。
サークルの上に立ったルーファス。
「……マズイ」
つぶやいた。
サークルはランダムに割り振られている。
ルーファスの周りは敵ばっか!
「(はじめの作戦ではセツから逃げようと思ってたけど、思ってはいたけど、はじめっから独りなんて怖すぎる!!)」
周りの参加者たちを見回して、ルーファスはある重大なことに気づいた。
「しまった……(武器忘れた)」
ルーファス装備なし!
鍛冶の神ゾギアを祝した大会であり、基本的には武器を持って戦うが、中には素手の者もいる。だが、あくまで素手の者は武闘家であり、素手のプロだ。もやしっこルーファスとは体格からして違う。
「お腹痛くなってきた」
ルーファスピンチ!
周りの参加者達の目が『お前なんでここにいるんだよ?』的な感じだ。観客もそう思っているに違いない。そして、一番思っているのは、間違いなくルーファスだろう。
「(ギブアップする前に袋だたきに遭いそう。まずはだれかと合流したほうが痛い目に遭わなくて済むかも)」
急いでルーファスは遠くを眺めた。
もっとも近くにいるのはハガネスだ。15メティート(20メートル)くらい離れていそうだ。背中の大剣ではなく、長剣を構えている。
さらに遠くにビビとセツ、二人は運良く隣同士のサークルだ。大鎌と鉄扇で戦う気だ。
試合開始1分前。
ルーファスの足下が汗で海になりそうだ。
「(とにかく逃げ回るしかない)」
敵の武器を奪うなんて大冒険はルーファスにできるハズがない。
試合開始10秒前。
5、4、3、2、1――会場に鳴り響くラッパの音色。出陣に相応しい軽快な音色だ。
身構えるルーファス。
逃げる予定が足がすくんで動かない。
頭を抱えてしゃがみ込んだルーファス。
どこかで男の悲鳴が聞こえた。
剣と剣が交わる甲高い音。
渦巻く熱気。
ルーファスは動かない。
ドサッという音がしてルーファスは足下を見た。男が伸びている。もうすでにシールはなかった。
「……あれ?」
だれも襲ってこない。
見事なまでにルーファスはスルーされていた。
逃げるなら今だ!
ルーファスが動き出そうとした瞬間、目の前に影が立ちはだかった。
「先輩も出てたんですか(弱そうなのに)」
魔導学院の後輩ジャドだ。ジャドは暗殺一家に生まれ、体中に武器を隠し持っている暗器の使い手でもある。
「え〜と、ジャドだっけ?」
「そうです、ペット捜しから暗殺まで、幅広ぐぇっ!」
呻いジャドが気絶して倒れた。
目を丸くしたルーファス。2撃目が来る!
弓矢か?
違う、飛道具だが弓矢ではない。
ロッドだ。魔導を帯びた宝玉を付けられた杖を振ることによって、魔弾を飛ばすことができるらしい。使っている相手は魔導衣を着た若い女だ。
魔法を唱えたりすることは禁止されているが、武器で魔力を変換して攻撃することは許可されている。魔導士タイプの出場者もいるのだ。
瞬時ルーファスはしゃがんだ。
頭の上を通り過ぎる魔弾は白熱の光を帯びていた。おそらく光系の魔力が攻撃に変換されている。
3撃目はすぐに来た。
「ぎゃ!」
かろうじてかわすルーファス。
4、5、6と連続して来た。
「ぎゃっ、ふんっ、どぅあ!」
またもかろうじてかわすルーファス。逃げたり避けたりは大得意だ。
武器も持たないもやしっこに攻撃をかわされ、女魔導士は怒りを露わにした。
「弱そうだから狙ったのに! これでも喰らえ!!」
10発以上はありそうな魔弾が一気に飛んできた。さすがにこれでは逃げ場はない。
ルーファスの目に飛び込んできた輝く盾。
「だれの落とし物か知らないけど借ります!」
しゃがめば体を覆い隠せる巨大な盾だ。
魔弾がルーファスの真横の地面を抉った。土塊が飛び散る。まるで鉄球の雨だ。
「きゃあああっ!」
甲高い叫び声。
魔弾の雨が止んだ。
恐る恐る盾から顔を覗かせたルーファス。女魔導士が倒れている。周りに女魔導士を倒した人物はいない。
ルーファスは気づいた。
「そうか、この盾はミラーシールドの類だったのか!」
盾は物理攻撃を防ぐだけではない。中には魔力を反射する物をある。雨のような魔弾は、盾に弾かれ女魔導士に返っていったのだ。
運良く自滅してくれた女魔導士。
何気にルーファスはシールをゲットした!
それも4枚だ。女魔導士が持っていた2枚、彼女本人のシール1枚、そして気絶しているジャドの1枚だ。
シールは剥がすと赤から青へと変わる。
ちなみにシール枚数イコールポイントのため、自分自身のシールも加算される。つまりルーファスは5ポイント持っていることになる。
突然うつ伏せになって倒れたルーファス。攻撃を受けたのではない、狙われる前に気絶したフリをしたのだ。
薄目で当たりを確認すると、スネ毛が見えた。男が辺りを確認しながら歩いている。気絶していないことがバレたら確実にヤラれる。
男が剣を振り上げた。
「(やられる!)」
と、心の中で叫んだルーファス。
しかし、男が剣を振り下ろしたのは拳に鋭い爪を装備した別の男だ。
爪男は剣をその爪で受けている。
ルーファスのすぐ目の前ではじまってしまった戦い。
二人が戦ってる隙に逃げたいところだが、そのタイミングも難しい。飛道具を使ってくる者もいることから、注意するのは目の前の二人だけとは限らない。
薄目でルーファスは巨大スクリーンを凝視した。時間がカウントされている。本戦が控えているため、予選は時間制限がある――1時間だ。
「(ムリに逃げて痛い目に遭うより、ここでじ〜っとしてるほうが安全かも)」
ルーファスは気絶したフリをし続けることに決めた。
が!
「ふぎゃ」
思わず呻いたルーファス。背中を思いっきり踏まれたのだ。
「てめぇ!」
踏んだ爪男が叫んでルーファスをガン見しながら転倒する。そこへ振り下ろされる剣。
顔面に剣をモロに喰らった爪男が倒れた。真剣勝負だったら死亡しているところだが、防御魔法で守られているため死んではいない。ただ衝撃はあるので、鼻と口から血が出ている。
スネ毛男がニヤリとルーファスを見下ろしながら笑っている。
苦笑いを浮かべるルーファス。
「あはは、バレちゃいました?」
「キタねぇヤロウだ、気絶したフリしてやがったな!」
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)