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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

INDEX|66ページ/104ページ|

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 あれがルーファスたちが倒すべきライバルだ。優勝する気ならば勝たねばならない。
「……ムリ」
 ルーファスがつぶいた。
 予選ですら勝つ気がなかったルーファスが、覆面剣士の戦いを見て完全にあきらめた。
 隣のビビは真面目な表情になっていた。覆面剣士の戦いを見て、浮ついた気持ちが引き締まったのだろうか。
「覆面で顔を隠してるのって……やっぱりブサイクだからなのかな?」
 ということを悩んでいるだけだった。
 ハガネスは覆面剣士の戦いから目を離さない。出場すれば優勝間違いないとウワサされる伝説の男も、覆面剣士の実力を無視できないと言ったところか。
 ――そして、A組予選が戦いの幕を閉じた。長い戦いを勝ち抜いた中には、もちろん優勝候補1番人気の覆面剣士がいた。

 自分たちが出場する最終予選E組の試合が近づくにつれて、ルーファスの体調が悪化してきた。
 じっといていられずルーファスは一人で出歩くことにした。
「うう……(おなか痛い)」
 もうすでにトイレには何回か駆け込んだ。
「うう……(胃も痛い)」
 常備している胃薬も飲んだ。
「うう……(逃げたい)」
 今はひとりだ。周りにセツもビビもいない。今なら逃げられる!
 ルーファス逃亡!
 別に正面ゲートから逃げても問題ないが、小心&罪悪感でコソコソ逃走。
 窓から外に出て、会場裏にある茂みに逃げ込む。
 茂みはそのまま森に繋がり、その敷地は自然公園になっている。
 人気のない森。
「ホゲェェェェェェ〜〜〜」
 不気味な呻き声が響いてきた。
 ビクッとルーファスは体を凍らせた。
 自然公園に管理されてはいるが、自然と名がつくだけあって、自然な状態が保たれている。カワイイ小動物から、大型の獣まで、バリエーションも豊富だ。
 なにかいる!
 ルーファスの近くになにかいる!
 謎の呻き声を発する生物がいるのだ!
 ルーファスは逃げることもできる、その場から動けなくなってしまった。
 ガサガサッ、ガサガサッ!
 茂みが揺れた。
 なにが出てきた!
 幽鬼のような影が茂みから出てきた。
 ……目が合った。獣のような鋭い眼。どこか荒んだ瞳だ。
 ルーファスは唖然としながら口を開く。
「あ、こんにちは」
「…………」
 ハガネスだった。
 向かい合ったままハガネスは動かない。
「…………」
「…………」
 二人とも無言。
 ハガネスが口に手を当てた。
「ホゲェェェェェェ〜〜〜」
 嗚呼、大地に還元されていく。
 あの謎の呻き声は、ハガネスは内容物をリターンしている音だったらしい。
「……あの、大丈夫ですか?」
「問題……うぇぇ、うげっ、ううっぷ」
 ぜんぜんダメそうだ。
 しかし、ハガネスは平静を装うとする。
「問題ない……少し……酒を飲み過ぎただけだ」
 ここにビビがいたら疑問に思うだろう。
 ハガネスはあの酒場からずっとルーファスたちに同行させられている。ここで独りになる前に……とも考えられるが、酒の臭いがまったくしない。
 あえて臭うとしたら【自主規制】のかほり。
 同族、同じ種類の者同士は互いを嗅ぎ分けることができる。
 ルーファスは察した。
「本番前になると体調崩すタイプですか?」
「…………」
 無言になるハガネス。
 もともと無口っぽい感じだが、この無言はいつもと違う。
「…………」
「…………」
 お互い無言。
 無口なドラゴンスレイヤー。そのキャラが崩壊を迎える。
「な、ななななな、なにを言ってるんだ、まるで俺がプレッシャーに弱いみたいな……そんなことはない、おまえも俺の伝説を知っているだろう!」
「ドラゴンをその身一つと剣だけで倒したって云われてますよね」
「そうだ、俺がひとたび背中の大剣を抜けば、大地が震え上がり地震が起こると云われている。ゆえに俺は〈地鳴りの大狼〉と謳われているんだ」
「本物の〈地鳴りの大狼〉ですよね?」
「……そうだ、そう呼ばれている」
「(あやしい)」
 湿度の高い生暖かい視線でルーファスはハガネスを見つめた。
 まさか目の前にいる〈地鳴りの大狼〉は偽物か?
「本当に本当の本物の〈地鳴りの大狼〉ですよね? ドラゴン倒したんですよね?」
「そう呼ばれて、そう語られている」
 なんだか微妙な言い回し。
 さらに追求する。
「ドラゴンは倒したんですよね? 語られてるとかそういうのじゃなくて、実際に戦って止めを刺したんですよね?」
「ドラゴンは倒し……」
 そこで言葉が詰まった。代わりにルーファスが言葉を紡ぐ。
「てないんですか?」
「…………」
「質問を変えます。まさか弱いんですか?」
「ば、ばか言え! 俺は断じて弱くはない、それは本当だ、信じてくれ、俺は弱くはないんだ本当に!」
 焦りすぎ。
 湿度がさらに高くなったじと〜っとした視線で、ルーファスはハガネスを見つめた。
「背中の剣も飾りですか?」
「この剣は伝説の宝剣だ。抜けば天と地を割ると云われている」
「云われている?」
「……この剣が正真正銘の本物だというのは事実だ」
 ハガネスは微妙な言い回しこそするものの、ウソは言っていないように思える。
 ではいったい、ハガネスはなにを隠しているのか?
 今までの周りの話とハガネス本人の話を要約するとこうだ。
 〈地鳴りの大狼〉と呼ばれている。
 超巨大なドラゴンを1人で肉体と大剣のみで倒したと語れている。
 断じて弱くはない。
 背中の大剣は伝説の宝剣であり、抜けば天と地を割ると云われている。
 ちなみに名前はハガネス。
 全部、言葉に過ぎない。言葉だけでは事実と認められない。剣を抜いた姿も、戦っている姿も見てない。ルーファスが見たのは【自主規制】していた姿。
「本当のこと言ってくれませんか? もうすぐ予選はじまりますし、もしもウソをついているなら、全部バレますよ、観客全員に前で(予選前に逃げれば別だけど。あ、ここにいたってことは僕と同じで逃げる気だったんじゃ?)」
「あんたに俺の気持ちがわかるか、俺の苦しみがわかるもんか……」
 ハガネスは荒んだ眼をしてルーファスから顔を背けた。
「まさか逃げる気だったんじゃないですよね?」
「逃げる気ならこんなところで吐いてない」
「(逃げる気ならプレッシャーもないから吐かないってことか。そう言えば)大会に出るの渋ってましたよね? 出る気がなかったら、なんでここに来たんですか?」
「はじめは出場するつもりだったんだ……でも、いつもこうなんだ。周りに過度な期待をされて、絶対優勝なんて言われてる。そんな俺がもしも……」
 ハガネスは頭を抱えて地面にあぐらを掻いてしまった。
「やっぱり弱いんじゃ?」
「それは違う! 本当だ、腕には自信がある。厳しい修行もしてきた……地獄のような日々だった」
 そして、過去を思い出すように遠い目をして、ハガネスが語りはじめた。