魔導士ルーファス(2)
伝説のドラゴンスレイヤー2
「なんで…………俺まで」
どうしてこうなった感をたっぷり込めてハガネスはつぶやいた。
酒場から逃げたあと、どさくさに紛れて出場受付をさせられてしまった。まずセツが受付を済ませ、次にノリノリのビビ、ルーファスは強引に、ハガネスは3人が登録を済ませたんだから次はおまえの番だぞ的に、気づけば出場決定。
そして、当日参加組の受付が終了した。
すぐに予選A組のバトルロイヤルがはじまる。当日参加組は予選D組と最終組のE組だ。その後、短い休憩を挟んで本戦がはじまる。当日参加組は、ほぼ連戦となるため、過酷な戦いが強いられることになる。
大会の流れや傾向を見つつ、今後の対策を話し合うため、4人は観客席で話し合うことにした。
席に座らされたハガネス。
「どうして俺まで……」
とか言いつつも、なんだかんだで一緒にいる。もしかしたら、ルーファスと同じで、押しに弱いタイプなのかもしれない。
予選がはじまると客席のボルテージが一気に上がった。
歓声がまるで津波のように客席を呑み込む。
会場にはいくつかの巨大スクリーンが設置されており、注目の戦いが映し出される。巨大スクリーンには、戦いのようすがさらに分割されて表示されており、人数が減ってくると分割数が少なくなって、最終的には大画面に1つの戦いが映し出されるようになる。
バトルロイヤルの勝敗は獲得ポイントによって決まる。参加者は体の見える場所に配布されたシールを張り、それをほかの参加者から奪うことによって枚数がそのままポイント数になる。シールは張った本人が剥がす、もしくは気絶すると剥がせるようになっている。シールを失った者はその場で退場、一度剥がれたシールは二度と張り直すことはできない。
予選がはじまった途端、何人かの出場者が集中的に狙われはじめた。優勝候補たちだ。バトルロイヤルでは、示し合わせたように強い者が寄って集って狙われる。
それを知ったセツはハガネスに顔を向けた。
「予選ではあなたが狙われる集中して狙われる可能性が高いですね」
「…………」
ハガネスは固い表情をしてなにも返さない。
予選を見ているだけで青い顔をしているルーファス。
「無名選手の僕はあんまり狙われなくて済むかな(はじまってすぐにギブアップしよう。そのためにはまずセツから必死に逃げて、見えないところでシールを投げ捨てなきゃ)」
ルーファスの敵は味方の中にいるらしい。
身を乗り出してビビは観戦に熱を上げている。
「ねぇねぇ、A組に前大会の優勝者がいるんだって! しかもその人、3大会連続優勝してるらしいよ! オッズ低かったけど200ラウル賭けちゃった!!」
ここでセツは冷静にツッコミ。
「あなた優勝する気ないでしょう?」
「ん、なんで? あたしヤル気満々だよー!」
「だったらなんで他人に賭けるんですか……はぁ」
セツは溜息を落とした。
ハッとしたビビ。
「そっか、あとで自分にも賭けてこよう!」
ビビちゃん優勝する気も満々。
ちなみに予選の賭は、単勝や複勝、連勝式など、幅広く扱っている。中でも的中困難なのが、組予選通過者計10名をポイント獲得数の多い順で当てる連勝単式である。
ちなみに大会非公認の賭け屋[ブックメーカー]では、予選通過10名の連勝単式からさらに、獲得ポイント数まで当てるという独自の賭けも行っている。
セツは優勝者当てのオッズを思い出していた。
「1番人気はオッズが低かったですが、それ以降の人気がバラけているようだったのはそのせいですか」
優勝者は真っ先にバトルロイヤルで狙われる。本戦に出場できても、予選の総攻撃でだいぶ体力も消耗させられ、怪我も負ってしまうかも知れない。そのハンデがある条件で3大会連続優勝というのは、不動の1番人気というのもうなずける。それ以下の者は、予選の集中攻撃によって蹴落とされ、2位以降の順位の毎回大きく変動す要因になっている。そのために賭の予想も困難になる。
賭けの予想は難しくなるが、参加者には優勝のチャンスが与えられる。うまくつぶし合ってくれれば、予選突破も夢ではない……かもしれない。
でもルーファスは負ける気満々!
「(セツからも逃げなきゃいけないけど、ビビにもわざと負けるとこ見せたくないなぁ。二人から逃げるとなると至難の業だし、あとでバレてもマズイからうまくやらないと)」
ひとりで作戦会議中だった。
全員参加の会議も同時進行だ。セツが話している。
「予選は全員通過を目指します。本戦ではわたくしたち3人は最低でも1勝を勝ち取り、優勝候補と当たってしまった場合は、全力で相手の体力を削ること。そして、ハガネスさんの優勝確率を高めます。あくまでわたくし3人は、ハガネスさんの剣となり、盾となり、そして踏み台です。それが優勝への最善の方法だと思います」
「え〜、アタシ優勝する気満々なんだけどー?」
うん、ビビちゃんはそのままがんばればいいと思う!
さらにセツが話を続ける。
「予選ではバラけるよりも、固まった方が有利だと思います」
「……げ」
ルーファスが漏らした。いきなりセツから逃げる作戦が困難になりそうだ。
まだセツの話は続いている。
「問題はハガネスさんともいっしょにいるべきかということで、ハガネスさんが集中して狙われた場合、わたくしたちもそれに巻き込まれる可能性があります。しかし、ハガネスさんがそれでも余裕のようであれば、わたくしたちのこともまとめて守ってもらい、逆に安全ということになります。どうですかハガネスさん、わたくしたちも守って戦えますか?」
「…………」
ハガネスはなにも答えなかった。
そこへビビが身を乗り出してきた。
「ちょ〜強いんだからだいじょぶだよ! ドラゴンに比べたら人間の群れなんてアリの大群みたいなものだし、ひとりでやってくれるよ生ける伝説ハガネスは!」
他人事なのに自信満々。
ハガネスは否定も肯定もしなかった。無言なのは自信の表れか?
ここでルーファスがボソッと。
「キングカリフンアントっていう全長3メティート(約3.6メートル)を越える世界最大のアリがいるけどね」
そんなアリの大群はヤバイ。ルーファスにとって、戦わなきゃいけない参加者たちは、みんなヤバイ相手だ。実力者から見れば小物、ルーファスから見ればみんな大物。
会場のモニターの分割数が減ってきている。ルーファスたちが話している間も、1人、また1人と敗者が退場していく。
人数が減ってきても未だ集中攻撃を受けている者がいる。画面がその戦いを大きく映し出した。優勝候補1番人気の剣士だ。
その姿を見たビビが唖然とした。
「銀行強盗……百歩譲ってプロレスラー」
マスクが。
ルーファスもはじめて知ったようだ。
「あれが前大会優勝者? 覆面戦士とは聞いてたけど(あのマスクはない。しかも、僕より貧弱そうな体付きなんだけど)」
デスマスクを被った小柄な剣士。体系もごつい感じではなくスマートだ。しかし、強い。
まずスピードが尋常ではない。敵の攻撃をかわしながら、一瞬にして敵の懐や背後に回り込む。そして自分よりも2倍以上ありそうな巨人を一撃で仕留めるパワー。
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)