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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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「そうだ、この大会は運営本部が公式で賭をやってるんだ。優勝候補は一目でわかると思うよ」
 3人は賭けが行われている広場に向かうことにした。

 お目当ての優勝の賭は、1回目の締め切りが予選A組と同時に行われる。まだ1つも予選が行われていないため、参加者全員が賭の対象となる。ただし、最終予選は当日参加組なので、まだ参加受付の最中ということもあり、全参加者が出そろっているわけではない。当日参加組はリストに登録された者から順次、賭の対象となる。
 広場に設置された超巨大ディスプレイに、現在の人気優勝候補者とオッズが表示されている。
 ディスプレイに表示された6番目の名前をルーファスが指差した。
「エルザ先輩の名前だ(6番人気なんてさすがだなぁ)」
「知り合いですか?」
 セツが尋ねた。
「あれ……さっきエルザが来たとき、いなかったんだっけ?」
「ああ、さっきすれ違いました。前にもお会いしたことある方ですね。ルーファス様のお知り合いなら話を付けやすいですが、6番人気では心許ない。手を組なら優勝できる方がいいのですが……」
「手を組むの?」
「わたくしたちだけでは予選は通過できても優勝は不可能でしょうから(最終的には優勝者にトロフィーを譲ってくれるように頼むつもりだけれど、優勝の証を簡単に手放してくれるかどうか)」
 後ろにいた男たちの声が漏れ聞こえてきた。かなりのヒソヒソ話だ。
「なあ聞いたか、伝説の男が出場するって聞いたぞ」
「伝説の男ってだれだよ?」
「ドラゴンスレイヤーの〈地鳴りの大狼[たいろう]〉だよ、出場したら優勝間違いなしだろ」
「そりゃすげぇ、大剣[たいけん]1本で超巨大なドラゴンを殺したって男か。しかも1人で。竜塚[りゅうづか]があまりにデカイもんで、地図を書き換えた話だな」
「けどさっきっから名前探してるんだが、どこにも載ってないんだよ」
「ならガセだな。それにそんな男が出たら賭けにならないだろ」
 二人の男が話していると、知り合いらしき男がやって来た。
「おいお前ら、マジでいたぞ。今酒場に行ってきたんだが、ありゃ間違いねえよ、絶対本人だ」
「落ち着けよ、だれがいたんだ?」
「〈地鳴りの大狼〉に決まってんだろ、周りにいたヤツらも絶対そうだってコソコソ話してたぞ」
 話を聞いていたセツがルーファスの腕を引いた。
「行きましょう」
「どこへ?」
「いいから、早く。参加受付が終了してしまいます」
「げっ、やっぱり出場するんだ」
 てっきり受付まで引きずられるものだと思っていたら、ルーファスが連れて来られたのは酒場だった。
 コロシアム内にある酒場。ここにいるのは観客がその大半だが、戦闘前に酒を煽っている出場者も少なくない。
 盛り上がりを見せる店内だが、店の奥――角の席だけ空気が違った。人が寄りつかない。大剣を背負った黒髪の若い男がひとりで飲み物を飲んでいた。
「あの方だと思います」
 セツが言って、気負いすることなく男に近づいていく。
 ルーファスが前に立ちふさがる。
「まずいって、声かけない方がいいよ」
「どうしてですか?」
「どうしてって、近づいただけで斬られそうだし」
「近づいただけで人を斬っていたら、今ごろ全世界で指名手配されていると思います。話をして、手を組んで欲しいと頼むだけですから」
「ダメだって、なんかあの人一匹狼っぽいし、手とか組んでくれないって」
 二人があれこれ言っているうちに、ビビの姿が消えていた。
「どもども〜、アタシビビっていうのよろしくねっ♪」
 もう声かけとるーっ!
 すでにビビは二人を放置して男に声をかけていた。
 男は一瞬だけビビに目をやったが、すぐに視線を戻して無視を決め込んだ。話したくもないようだ。
「ねぇねぇ、その剣一本でちょ〜でっかいドラゴン倒したってホント? 魔法も使わずに、生身の人間が剣一本で? アタシこう見えてもちょ〜カワイイ悪魔なんだけど、人間って魔族とかに比べたらちょ〜脆弱じゃん? なのにドラゴンに勝っちゃうなんてすごくない?」
 一方的にしゃべりまくったビビちゃん。
 しかし、男はシカト。
 そこへセツが遅れてきた。
「あなたが〈地鳴りの大狼〉でしょうか? そうならば、ぜひ力をお貸しいただきたいのですが?」
 男がセツに顔を向けた。
「たしかに……〈地鳴り大狼〉と人は呼ぶ。わかっているなら声をかけるな」
 鋭い眼だ。男は鋭く荒んだ眼でセツを睨んだ。
 睨むのならばセツも負けていない。
「用件だけでも聞いてくださいませんか?」
 口調は丁寧だが、声に凄みがきいている。
 男はセツから視線を外し、
「名前は?」
 と飲み物を口に運んだ。
「セツ・ヤクシニと申します」
「用件だけ聞こう。俺の名前はハガネス」
 セツは柔和な顔をして、ルーファスはほっとした。
 ビビはちょっぴり膨れ顔。
「(アタシのなにが悪かったのかなぁ?)」
 態度。
 受け付け終了まで時間がない。さっそくセツは本題から切り出すことにした。
「この大会の優勝トロフィーを必要としています。地位や名誉が欲しいと言っているのではありません、トロフィーの素材であるホワイトムーンが必要なんです」
「ホワイトムーンならべつのところで買えばいいだろ」
「街で探しましたが、ホワイトムーンが不足しているらしく、わたくしの求めている良質な物となると見つかりません。長い時間をかければ手に入るかもしれませんが、あまり時間がないもので、ぜひあのトロフィーが欲しいのです」
「それで俺に何の用だ?」
「あなたに優勝してもらってトロフィーを譲って欲しいのです。もちろんそれなりの報酬は払います」
「……大会には出ない」
「は?」
 と最後につぶやいたのはルーファスだった。
 参加名簿に名前がなかったのは、大会に出場しないからだ。
 セツも少し驚いたようだ。
「大会の出場するためにここにいるのでは?」
「その……つもりだったが、俺のレベルには合わないようだ」
 強烈な酒の臭いがした。
 酔った男がこちらに近づいてくる。腰には剣を差している。
「ひっく……おい、〈地鳴りの大狼〉さんよぉ……うっぷ。アステア武闘大会といやぁ、世界から腕自慢が集まる名高い大会だぜぇ? それをよぉ、レベルが合わないだと何様だ……ひっく、参加もしねぇで優勝気取りかぁ、おい?」
 酔って絡んできた男。ハガネスは顔すら合わせない。その態度がさらに男を怒らせた。
「おい、剣を抜け……ここでおれと勝負だ、これでもおれはちょっとは知られた剣士だ。ボンジョボン様と言えばわかるだろ、おれがそのボンジョボンだー!」
 ビビはルーファスと顔を合わせた。
「ルーちゃん知ってる?」
「さあ、聞いた事ないけど。セツは?」
「わたくしも存じ上げません。少なくともわたくしの故郷まで名前は届いていませんが」
 3人とも知らなかった。
 周りでこの騒ぎを見ている客たちも、顔を見合わせたり、ヒソヒソ話をしながら、疑問符を表情に浮かべている。
 ボンジョボンの顔が酒で染まった以上に赤く燃え上がった。