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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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伝説のドラゴンスレイヤー1


 10月の守護神は鍛冶の神であるゾギア。
 そして、10月10日の今日は鍛冶の日である。
 王都アステアでは今日の日にちなんで、武術大会が行われる。古くからある大会で、軟派なアステア王国には珍しい血なまぐさい大会だ。
「こういう大会苦手なんだけど……もう吐きそう」
 ぼやいたルーファス。
 5万人を収容できるコロシアムは熱気で溢れている。多くは野郎客だが、女性の客も多くいる。とは言っても、万人に受けるような場所ではない。
 なぜこんな場所にルーファスが来ているかというと――。
 カーシャがめんどくさそうに、生徒たちの前に立った。
「これから1時間は自由行動だ。今になって大会にエントリーしたい者はこの間に済ませておくように、ほかの者は試合がはじまる前に席に戻ってこい。以上、解散」
 クラウス魔導学院の社会科見学で来たのだ。
「ねぇ、ルーちゃんは出場しないの?」
 と、ビビがなんの疑問もない表情でたずねてきた。
「するわけないじゃないか! これがもし魔導大会でも絶対にしないよ(痛いのイヤだし)」
「だったらアタシ出ちゃおうかなぁ」
「危ないよ絶対!」
「だいじょぶだよ、アタシどっちかっていうと魔導より武術のほうが得意だし、武器はなんでもいいんでしょ?」
「剣術、槍術、弓術、棒術、魔法を唱えたりはダメだけど、魔導技術の使われてる武器と防具とかはオッケーだったかな」
「んじゃ、アタシのはオッケーだね!」
 いきなりビビは亜空間から大鎌を取り出した。
 ビュン!
 ルーファスの眼前で刃が風を切った。
「うわっ! ひとの多いとこで危ないから!」
「あ、ごめん」
 すぐにビビは大鎌を亜空間にしまった。
 たしかにビビは大鎌使いではあるが、観客の収容規模からもわかるように、とっても大きな大会である。獅子の群れの中に子猫を放つようなもの。取って食われる程度で済めばいいほうだろう。
 二人が話していると、クラウスがやって来た。
「ビビちゃんも参加するのかな?」
「やっほークラウス。楽しそうだし、危険はないんでしょ?」
「最高峰の防御結界と、防御魔法が出場者にはかけられてるとはいえ、強い攻撃を受ければ衝撃と反動は計り知れないな。僕の代になってからは死亡者は出ていないけれど、それでも毎回重傷者は多数出ているし、ビビちゃんみたいなかわいい子には進められないね」
「えっ、そんな怖い大会だったの!? 会場の外に屋台もいっぱいあったし、お祭り感覚だと思った」
 お祭り感覚であることには違いないが、盆踊り大会の雰囲気ではない。
 ルーファスは心配そうな顔をクラウスに向けた。
「今回も出るの?」
「ああ、もちろん。王としてではなく、ひとりの剣士として。去年は1回戦からまさかヴェガ将軍と当たるなんて、しかもボロ負けで大けがまで……(あのお陰で前の大会での八百長疑惑は晴らされたけど、王としての威厳は下がったな)」
 ひとりの剣士として出場したくても、そこにはどうしても王という肩書きが付きまとってしまうのだ。
 周りにいた人々の動きと声が止まった。
 燦然と輝く白銀の鎧。太陽のように輝くブロンドヘアの女騎士。人々の視線からも今大会の注目度がわかる。
「第1予選の準備と開会宣言の準備がありますので、お戻りください」
 その女騎士が仕えるのはクラウス。魔導騎士エルザ、クラウスの側近中の側近であり、クラウス魔導学院の卒業生でもある。つまりルーファスたちの先輩だ。
 エルザが話しかけたことによって、クラウスも注目されはじめた。
「不味いな、バレたかな。それでは僕は失礼するよ。ビビちゃん、僕の応援頼むよ」
 足早にクラウスがエルザと共に去っていく。
「任せといて♪」
 ビビはクラウスの背に投げかけた。
《あと30分で当日参加の受付を終了したします》
 会場にアナウンスが流れたが、ほとんど人々の大波のような声に掻き消されてしまっている。
「ルーファス様ーっ!」
 荒波を越えて少女が駆け寄ってくる。
 嫌そうな顔をするルーファス。
「……げっ」
 それとは対照的なニコニコ笑顔のビビちゃん。
「セッたん、こんちわわー!」
「おはよう……ビビ」
 ビビの顔をあまり見ないようにセツはあいさつを返した。少し頬が桜色だ。
 二人ののようすを見てルーファスは、
「(相変わらず仲悪いみたい)」
 きのうのビビとセツの温泉秘境大冒険を知らないルーファスは、そんな風にセツの態度を見たようだ。
 気を取り直したセツが元のテンションに戻る。
「ルーファス様、大変です!」
「(セツが現れるといつも大変なんだけど)どうしたの?」
「この大会の優勝賞品は純正ホワイトムーンのトロフィーです!」
「……へぇ(まさか出場するとか、出場しろとか言わないよね?)」
「いっしょに出場しましょう!」
 予想的中!
「うん、出ないよ♪」
 ルーファス笑顔で即答。
 ビビが獅子の群れに子猫なら、ルーファスはネズミだ。
 ならばセツは?
「いいえ、絶対に出場します。予選はバトルロイヤルですから、二人で出場したほうが有利です。愛の力でがんばりましょう!」
 ヘビだ。しつこいの代名詞のヘビ。そして、ヘビに睨まれたカエルのように、ルーファスは強硬なセツに対抗できない。あ、ルーファスはネズミだった。どちらにせよ、ネズミだろうがヘビにかかれば、丸呑みだ。
「アタシも出るー!」
 ビビちゃんが挙手した。ヤル気満々だ。
 バトルロイヤルとは、3人以上が同じ舞台で戦い乱れる勝ち残り戦だ。出場者同士が強力し合うことも可能なため、セツはルーファスと出場しようとした。ここにビビが加われば、さらに強力して戦うことも可能だ。
 が、セツはほそ〜い目でビビを見つめた。
「足手まといになります」
「ならないよっ!」
 すぐにビビが食い付き、ルーファスがコソッとパクッとする。
「それを言うなら僕のほうが足手まといになると思うけど」
「ルーファス様はわたくしがお守りいたしますから心配なさらずに!」
 ソレッテ足手マトイナンジャ?
 万が一、バトルロイヤルの予選を通貨できたとしても、その先には本戦がある。
 ルーファスの顔は心配一色。
「予選は毎年運良く勝ち残っちゃう人がいるみたいだけど、本戦は1対1。実力がなきゃ1回戦で負けるに決まってるよ。この大会は規模も大きくて、国内外から実力者が出場してし、当日に参加受付をした出場者は、多く戦わなきゃいけないんだ」
 勝ち残る可能性は低くなるばかり。
 なにか良い手はないものか?
 ……と考えるのはセツだけ。ルーファスは出場したくないし、ビビはノリでなにも考えていない。
「優勝候補はどなたかわかりますか?」
 と、セツ。
「前大会はだれが優勝したんだっけ?」
 と、ルーファス。
「アタシに聞かれてもわからないよぉ」
 と、最後に顔を向けられたのはビビが答えた。
 近くにいる男たちの声が漏れ聞こえてきた。
「A組予選はゼッケン86は本命だろうな」
「俺は11番の子に2000ラウル賭けたぜ」
「おまえ顔で選んだろ。これ美女大会じゃなくて武術大会だぞ」
 賭の対象になっているのだ。
 ルーファスは観客席に来る前に通った広場のことを思い出した。