魔導士ルーファス(2)
セツは右フックを飛び退いてかわすと、すぐに踏み込もうとしたが、ボスサルはフックを放ってすぐに身を引いて距離を取っていた。
「狙うはボスザルですが……」
ちらりと服を着たメスザルを横目で確認したセツ。
再びボスザルが右フックを放ってきた。
「ファイア!」
セツの手から炎が放たれた。
怯んだボスザル。これでいい。魔法が得意でないセツは、これでボスザルを倒すつもりはなかった。
すぐさまセツが向かっていたのは服を着たメスザルの元だ!
セツはメスザルから自分の鉄扇を素早く奪い返し、すぐに突風を巻き起こした。
風はボスザルを呑み込み、その巨体を大きく吹き飛ばした。
もう岩山の頂上にボスザルの姿はない。
そこに立っているのはセツ。
「弱肉強食です。さて、服を返してくれますね?」
笑顔でセツはメスザルに話しかけた。
が、メスザルは服を着たまま逃亡!
笑顔から一変してセツがゴリラの形相で怒る。
「なに逃げとんのじゃコラッ!」
ボスが倒されたサルの社会に戦国時代が幕を開けた。
このときを逃すまいと、ボスザルの座を巡ってサルどもがセツに襲い掛かってきた。
が、今のセツに挑むなど……。
「おんどりゃー、道を開けんかボケカスッ!」
鉄扇が巻き起こす嵐。
逃げ出すサルども。
逃げ出すビビちゃん。
みんな涙目。
逃げ出したサルどもの前に壁が立ちはだかった。そんな壁、さっきまではなかったはずだ。
ビビは顔を上げた。そのまん丸な瞳に映るシュルシュルと舌を鳴らす大蛇の顔。
「猿どもよ、悪戯はそこまでにしておくのじゃ」
低く大地に響く声。
サルどもは一網打尽にされた。大蛇がすべてのサルを囲い込んでしまったのだ。
セツはすでに服を奪い返して着替えを素早く済ませていた。
「どこのどなたか存じませんが、ありがとうございました。これはあなたにお返しします」
大蛇に頭を下げてから、セツは服をビビに貸した。
機械的に服を受け取ったビビは、ハッとして我に返った。
「てゆか、もっと驚こうよ! 大蛇だよ、ものすっごい大きい大蛇だよ! あたしたち食べられちゃうかもしれないんだよ焦ろうよ!」
この大蛇にかかれば、ビビたちなど丸呑みだ。
だが、大蛇にその気は毛頭なかった。
「裸の付き合いをした者は取って食ったりはせぬ。我がだれだかわからぬか?」
ここまで言われれば、わからないはずがない。
「スラターンさん!」&「スララーン!」
同時に声をあげた二人。ビビのほうは聞き流すことにしよう。
スラターンは姿も違い、声はその巨大な体のせいだろう、太く響く声だ。すぐにわからなかったのも無理もない。
「我に乗るがよい。?ロロアの林檎?を売っておる売店まで案内しよう」
と、申し出くれたスラターンにセツは、
「では、出口までお願います」
スラターンは不思議そうな顔をした。
そんな顔をしたのはビビもだ。
「リンゴは?」
「もう疲れてしまってそんな気分ではありません。わたくしは帰りますが、欲しいのなら勝手にひとりでお残りになれば?」
「セったんが帰るならあたしも帰るぅー。もう十分遊んだし」
すでにセツはビビに背を向けて、スラターンの頭に乗せてもらっていた。
そして、誰にも聞こえないようにセツがつぶやく。
「……セったん(なんて、はじめて言われた)」
一息ついたセツは、頭によじ登ってくるビビに手伸ばして貸した。
伸ばされた手をしっかりとつかむビビ。
「ありがと♪」
ビビは満面の笑みだった。
顔を背けたセツは少し恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
外伝_恥ずかしげな林檎 おしまい
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)