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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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 セツは息を呑んで喉を鳴らした。
 牙を剥いたスラターンの顔が目の前で制止していた。
 あと刹那遅ければ、喉を噛み千切られていた。
「そうならそうと早う言え」
「(早くも何も、いきなり襲ってきて何を)薬の調合に?ロロアの林檎?が必要なのです」
「惚れ薬か?」
「えっ」
 まさか言い当てられようとは、セツは気まずい顔をして固まった。
「つい先日来た魔族の娘も惚れ薬をつくるとかで、?ロロアの林檎?を買って帰ったぞ」
「……買って?」
「?ロロアの林檎?なら売店に売っておる」
「……売店?」
「加工品も数多く取り揃えておるぞ。中でもリンゴパイは定番のおみやげじゃ」
「観光地!?」
 周りの殺風景な不毛の大地を見ると、寂れきった温泉街ということころか。
 スラターンは遠い目をした。
「ここが真にロロアの楽園であったころは、それは賑わいを見せる観光地じゃった」
「そんな昔から観光地なのですね」
「今では年間来園者は100人にも届かぬ。?智慧の林檎?を求め我に挑む猛者も少なくなり、実に退屈な日々じゃ。今ではサルを相手にしている日のほうが多い」
「はぁ、そうなのですか(だから?)」
 本音では、そんな話を聞かされてもどしようもないと思ってる。
 それに、湯の温度が熱いために、もう少しのぼせてきた。
 セツは湯を出ようと立ち上がろうとした。
「では、わたくしは先を急ぎますので」
「まあよいではないか、服もまだ乾いておらんだろう。猿は話相手にはならんのでな、こうやって話ができる相手がいることが嬉しいのじゃ。して、惚れ薬をつくるということは、思い人がおるのか?」
「おります」
 セツは柔らかな笑顔で答えた。
 それをビビは足湯をしながらつまらなそうに聞いていた。足を揺らして水を蹴る。飛び散る飛沫。
「ねぇ、温泉にも入ったしもう帰ろうよぉ」
「なにをおっしゃってるのですか、わたくしは?ロロアの林檎?を手に入れるためにここに来たのです。あなたは勝手に付いてきたのだから、勝手になさいませ」
 セツは冷たくビビに返した。
 顔を赤くしてビビは頬を膨らませた。
「まだ帰らないもん」
「勝手になさい」
 再びセツは冷たくあしらった。
「あーっ!」
 と、ビビが叫び声をあげ、セツはうんざりした顔をした。
「今度はなんですか?」
 ……サル。
 セツの瞳に飛び込んできたのは、サルがセツの服を持って逃走するシーン。
「…………」
 状況把握に時間を要するセツ。
 そして、状況を理解した!
「わたくしの服!!」
 叫んだセツは勢いよく温泉を飛び出し、駆け出そうとしたが、目の前に両手を広げて立ちはだかるビビ。
「だめっ!」
「わたくしの邪魔をする気ですか!」
「……その格好で行くの?」
「……あっ」
 セツは自分の姿を見て、顔を赤くすると温泉に再び浸かった。
 すっぽんぽんで大地を駆けるわけにはいかない。野生児か、公然わいせつだ。
 ビビが上着を脱ぎはじめた。
「あたしの貸してあげるよ。まだ湿ってるけど」
「(……ビビ)ありがとうございます」
 ビビに服を借りてセツは着替えた。
 そして、ビビが『よーいドン』の構えをした。
「よ〜し、がんばってサルを捕まえよーっ!」
「って、その格好で行くんですか、あなたも?」
「だってスカート貸しちゃったし」
 パンツ丸だしのビビ!
 そして、ノーパン、ノーブラのセツ!
 ちなみにビビのパンツはピンクのストライプだ。
 パンツ丸出しのビビも恥ずかしい格好だが、スカートのセツは危険だ。
「上着とスカートだけでなく、全部貸していただいたほうが……」
「でも1人より2人のほうがいいよっ!」
 自信満々でビビは言い放った。
 そうだっ!
 セツはあることをひらめいた。
「スラターンさん、服をしばらく貸していただけませんか!」
「服などない、我は常に全裸だ」
 野生児!
 セツは今の課程をなかったことにした。
「それではサルを追いましょう!」
 スカートを揺らしながらセツが駆け出した。
 すぐにビビもあとを追う。
 見晴らしのよい不毛の大地だが、サルどもの姿はすでにない。
 手がかりは?
 ビビは遠くを指差す。
「あっちになにかいるよ?」
 その方向をセツも見たが、視覚でも気配でもなにも知覚できない。
「本当ですか?」
「うん、生き物なら500メートルくらい先まで感知できるよ。それがどんな生き物かまではわからないけど」
「(魔族の超感覚)今はあなたを信じるしかなさそうですね」
 ビビの示した方向へ進む。
 やがて見えてきたのは岩山だ。
 人影?
 いや、サルだ。
 岩山の影からサルがわき出てくる。
「ウッキー!」
「キーキーッ!」
「ウッキッキー!」
 威嚇するようにサルが鳴いた。
 猿山の頂上にひときわデカイ影が見えた。
 ボスザルだ!
 周りのサルも巨大だが、ボスザルはさらにデカイ。全長4メティート(4.8メートル)はありそうだ。
 セツは声をあげる。
「あれは!」
 ボスザルの周りにいる巨乳のメスザルが、なんと服を着ている。そう、セツの服だ。しかも鉄扇まで取られている。
 セツはビビを見ずに話しかける。
「魔法は使えますか?」
「初歩的なのならぁ〜、使えるかなぁー、あはっ」
「わたくしも同じですが、肉弾戦ならあなたより強い自信ありますよ」
「あたしだって!」
 ビビは自分専用の異空間倉庫から大鎌を召喚した。今日のビビちゃんはマジだ。その証拠に瞳が紅く色づいている。
 サルどもが岩山を飛び降りてくる。数はおよそ10以上。
 迎え撃たずにセツは攻め込んだ。
「サルは縦社会です。雑魚に構わずボス猿を狙います!」
 しかし、そう簡単にボスザルには近づけない。
 ボスザルがいるのは岩山の頂上だ。そこまでには何匹ものサルが襲い掛かってくる。
「なら雑魚はあたしに任せて♪」
 ビビが大鎌をサルに振り下ろした。
 この大鎌は肉を断つことはない。
 まるで空気を斬るように、大鎌はサルの体を擦り抜けた。
 そして、ビビの手に握られているゆらめく炎のようなモノ。
「あとでこの魂は返してあげるね♪(美味しそうじゃないし)」
 カワイイ顔をしてても悪魔は悪魔だ。
 セツはサルを岩山から蹴落としながら頂上を目指していた。
 下からビビの声がする。
「気をつけて!」
「こんなサルにやられるわたくしでは――」
「スカートの中見えちゃうよ!」
「そういう大事なことは早く言ってください!」
 スカートを押さえて攻撃力、機動力が格段に下がった。
 セツにサルが飛び掛かってきた。
 臆することなくセツは相手の懐に入り、アゴに向けて掌底を放った。
 さらに後ろから来たサルには、踏み込みからの肘鉄。
 そして、また後ろから迫ってきたサルには、回し蹴り――を踏みとどまって、体を回転させながら裏拳を放った。
 3発の攻撃を3匹のサルに食らわすに要した時間は約1秒。流れるような攻撃だった。
 セツは頂上を見上げた。あと一歩でボスザルだ。メスザル以外はもう立ちはだかるサルはいない。
 ボスザルが動いた!
 四つ足で岩肌を蹴り上げ、セツの目の前まで来ると右フックを放ってきた。