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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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 空気の塊がルーファスの手から放たれ、ドアを見事に吹っ飛ばした!
 吹っ飛んだドアはファウストの真横の壁に当たった。
「……ルーファス、私を殺す気か?」
「だって先生が言ったじゃないですか、ドア壊せって!」
「……まあ良かろう(ルーファスに優を求める方が莫迦だ)。次はこの拘束をどうにかしろ」
 どうにかしろと言ったファウストの状態は、手錠のようなものでトイレのパイプに繋がれている。首にはスカーフのように布が巻かれているが、これは口を絞められていた物がズレたものだろう。
「ご自分じゃどうにかできないんでしょうかー?」
「拘束されているが見てわからんのか?」
「わかりますけど、そのくらいならご自分でどうにかできるんじゃ?」
「できるくらいならお前にドアを壊させるものか。この手錠はマナを練ってつくられたもので、物理的に拘束するとともに、魔力を封じる2重に厄介な代物だ。この手錠を解除することまでお前には望んでいない。この鉄パイプを壊してくれるだけでいい、それだけいい」
「金属を切るとか私には無理なんですけど?」
「…………(本当にルーファスは役に立たんな。このまま下手に頼んで悪化することも考えられる)わかった、ならば助けを呼んでこい」
「それも無理なんですけど」
「なにぃ?」
 ファウストは緊急防御コードが発動されたことを知らないらしい。
「じつはですね、なんか変なアナウンスが流れて、結界がどうとか、すべての扉をロックするとかなんとか」
 ぼや〜っとしたルーファスの説明だった。
 それでもファウストは理解したようだ。
「まさか緊急防御コードが発動されたのか……あの存在は講師でも長年いる者しか知らん筈だが。いや問題は発動の要因は何かということだ。最悪の事態は敵襲、それも王都が総力を上げて戦うほどの相手が攻め入ってきたという可能性だ」
「ええっ!? 戦争ですか、こんな平和な国で!?」
「この国が平和を気取っていても、攻め入ってくる敵には関係のないことだ」
「大変じゃないですか!」
 実際は敵が攻めてきたのではなく、ルビーローズたちによる学院関係者の監禁工作だ。間違った推測に向かうと思いきや、ファウストは別の推測をしていた。
「その通りだ。間違えであって欲しいものだが、私がここに閉じ込められたのが偶然ではないとしたら……外部から敵が攻めてきたのではなく、すでに内部に敵がいたことになる。そして私が狙われた理由はなにか?」
 事件とファウストの関連性。
「邪魔だったんじゃないですか?」
「その通りだ。見張りがいないことから人質ということではないらしい。そうなると、私がいては不都合なことがある。しかし心当たりが……いや、まさか…… まさかと思うが、たしか次の授業はお前のクラスだったな?」
「だからなんですか?」
「この国の最重要人物がお前のクラスにはいるではないか」
「クラウス!!」
 ルーファスとファウストは敵の目的に早くも近付いた。
 目的が学院内にいるクラウスとなれば、さらにファウストは次の考えに辿り着く。
「なれば防御システムはクラウスを救出する者を拒むためか。この学院の防御システムは鉄壁と聞いている。軍隊が攻めてきてもクラウスは救出できんだろうな。この推測が当たっていれば、少なくとも戦争ではなかったようだ」
「でもクラウスの身は危ないんですよね!」
「それはクラウスが敵にとってどのような立場にあるかによる。利用目的があるとすればクラウスは殺されることはないだろう。はじめからクラウスの命が目的であれば……」
「そんな!!」
「だが、防御システムがクラウスの救出を拒むものであるならば、クラウスに利用目的がるということだろうな」
「あぁ〜もぁ〜っ、とにかくクラウスを助けに行きます!!」
 と言ってみたものの、ルーファスもトイレに監禁されているような状況だ。
 どこかに出口はないのか?
 出入り口はロックされてる。窓も同じくロックされている。――ハズだった。
 ガチャッとドアを開けてトイレに入ってきた謎の人物。
 ふあふあ〜っと空色の影がルーファスの横を通り抜け、何事のないように個室に入っていった。
 …………。
 呆気にとられるルーファスとファウスト。
 しばらくしてジャーという音がしてローゼンクロイツが個室から出てきた。
 そして、何事もなかったようにトイレから出て行こうとする。
「ちょっと待って!」
 思わずそのまま行かせそうになったが、寸前でルーファスが呼び止めた。
 ごくごく普通に振り返ったローゼンクロイツ。
「トイレなら開いてるよ(ふあふあ)」
「そうじゃなくて、どうやって入ってきたの!?」
「ドアを開けて(ふあふあ)」
「だからそうじゃなくて、全部のドアがロックされてるハズというか、少なくともそこのドアは開かなかったんだけど」
「開かないドアなんてこの世にないよ(ふあふあ)。開かないならそれは壁だよ(ふにふに)」
「…………」
 斜め目線から諭されそうになっている。
 ズレた会話を二人にさせておくわけにもいかないので、ファウストが口を挟んできた。
「ローゼンクロイツ、お前なら私を助けられるはずだ。ここに来てパイプを壊すか、魔法錠を解除してくれないか?」
「いいよ(ふに)」
 ツカツカっと歩いたローゼンクロイツは伝家の宝刀を抜いた。
 ガズン!
 排水パイプを蹴りやがった!
 しかも、壊しやがった!
 魔法とか関係なしに蹴りで鉄パイプを壊したローゼンクロイツであった。
 ジャーッと噴き出す水でびしょ濡れになりながらファウストは――。
「(恐ろしい才能だ……ローゼンクロイツ)」
 とにかくファウストは救出されたわけだ。
 さらにトイレのドアも開いている。
 そのドアから何事もなかったように出て行くローゼンクロイツ。
 ――今度は止め忘れた。
 あまりにもローゼンクロイツが何気なさ過ぎるのだ。
 ハッとしたルーファス。
「と、とにかくクラウスを探しましょう!」
「多くの生徒は教室になどに閉じ込められ、自由に動けない状況だろう。動ける我々は二手に分かれた方が効率が良い」
「えっ?(ひ、ひとり……不安だ)」
「では行くぞ」
 ファウストは駆け足でトイレを出て行ってしまった。今日はジャラジャラ音を鳴らしていない。魔導具は拘束時に奪われてしまったらしい。
 慌ててルーファスもトイレを飛び出した。
 独りじゃ不安なルーファスは、ファウストと同じ方向に行こうかと一歩踏み出したが、クラウスのことを思うと別に道を進んだ。
 その生徒数からもわかるように、学院の敷地は広い。人を探すには絶望的に広い。ただ手がかりがゼロというわけではない。
 召喚実習室で授業があったということを考えれば、その方向に向かうのが最善だろう。まだそこにクラウスがいるという期待もルーファスは抱いていた。
 だとしたらファウストはなぜ別の方向に向かったのか?
 そこまで頭が回らなかったのか?
 とにかくルーファスは召喚実習に向かって駆け出した。
 トイレから召喚実習室へは、中庭を抜けると早く着ける。