魔導士ルーファス(2)
そして、話を変えようとした。
「さっきのメモは、メモ! あのメモなんだったの?」
「そうでした(まさかラブレター、なんてことはわたくしのルーファス様に限ってないと思いますが)」
セツはメモを開いた。
ビビが首を伸ばして覗き込む。
――カーシャちゃんドキドキわくわく媚薬の使い方講座♪
どうやらカーシャの手書きメモらしい。というか、イマドキこんな丸文字使うひといないぞ。しかもいい歳なのに。
セツは難しい顔をして眉を眉間に寄せた。
「媚薬って惚れ薬ということですが」
――この媚薬の使い方は居たって簡単、注射器で相手のケツにブチ込め!
続きを読んで二人とも唖然。
ケツにぶち込める状況ってどんな状況だよ。かなりの強攻策じゃないか。
――というのはウソで。
「「ウソかよっ!」」
ビビとセツは仲良くハモってしまった。同じセリフをユーリも言ってた気がする。
メモには裏面があった。
――この惚れ薬はまだ完成していない。完成させるためにはお前の体液が必要だ。この薬とお前の体液を混ぜ、それを相手に飲ませることにより効果が発生する。ちなみに混ぜる体液によって効果の度合いが変わってくるので注意しろ。妾のおすすめの体液はピーとかピーとか、ピーだな。
怪しむような顔をするセツ。
「ピーってなんですか、ピーって。伏せ字にすると卑猥ですし、ここが重要な点ではないのですか?」
「体液って3つもあったっけ?」
「汗、唾液……ってなにを言わすんですか!」
セツはなぜか顔を真っ赤に染めて、頭のてっぺんから蒸気を噴き出した。
瞳を丸くしたビビは首を傾げてきょとんとした。
「3つ目ってなに?」
「そんなこと自分で考えればいいでしょう」
「教えてよぉ〜、イジワルぅ」
腕に抱きついてきたビビを振り払おうとセツが腕を振る。
「ちょっと離れなさい。馴れ馴れしくしないでください」
「いいじゃん、あたしたちトモダチでしょ〜」
「いつから友達になったんですか、わたくしには覚えがありませんが」
「え? 違ったの?」
ビビの表情は真顔だった。
そんな顔を見てセツも真顔で少し驚いた顔をした。
「え?(そんな目で見られても)」
「あたしはトモダチだと思ってたのになぁ(ちょっぴりショックだなぁ)」
「本気で言っているのですか?」
「一度会ったらみんなトモダチだよっ」
「あ、あぁ、そうなのですか……(本気なのかわからない)」
心の声が聞こえればいいが、疑心を持った者は考えれば考えるほど、疑いの心は強くなる。
セツにとってルーファス様に近づくの女は、ぜ〜んぶ変な虫。そういう目で見ている限り、セツは相手の心がよく見えないかもしれない。
セツが持っていたメモをビビに奪われた。
「なにを!」
「カーシャのとこにレッツゴー!」
駆け出すビビ。
髪の毛をかき上げながら溜息を吐いたセツは、ふと笑ってビビを追いかけた。
カーシャは学院内にある自室にいた。
ドアを開けて元気よくビビが飛び込んできた。
「カーシャさん遊びに来たよぉ〜♪」
「勝手に遊んでろ、妾は忙しい」
赤ペンを持ったカーシャは答案の採点をしているらしい。
ビビがボソッと。
「教師っぽい」
カーシャっぽくない!
セツは感心したようにうまずいていた。
「この方、本当に教師だったのですね」
なんかカーシャが真面目に教師やってると、地震雷火事親父でも来るんじゃないかと思う。
激しい地鳴り。
稲妻のように部屋に飛び込んできた謎の影。
息を切らせ頭から湯気が出ている姿は、まるで家事のようだ。
「カーシャせんせーッ!」
ハゲオヤジが叫んだ。
うんざりした感じでカーシャは採点の手を止めた。
「今度はだれだ……ん、マッスルか(相変わらず油臭い。こやつが出て行ったらファブらなければ)」
ハゲオヤジこと魔武闘教師マックス。ハゲ頭の下はブーメランパンツ一丁のマッチョボディ。いつもなぜかテカっている。特に頭が。
「カーシャ先生大変です!」
「大声出さんでも聞こえてるわ。で、なにが大変なのだ?」
「部外者が学院のセキュリティを破って侵入したそうですよ! 連絡の電話入れたのに、カーシャ先生まったく出ないから、私に探して来いって言われて来たもんで!」
「部外者……か(こいつだな)」
と、カーシャはセツに顔を向けた。
冷や汗を流しながらセツはササッとビビの後ろに隠れる。
「(困りましたわ。このままでは突き出されて、これ以上この国で問題を起こすことは避けなければ。しかし、どうやって?)」
困り考えを巡らせているセツに、カーシャは意地悪そうに笑いかけた。
そして、マックスに向き直す。
「用件はそれだけか? わかったらもう帰れ、部外者を見つけたら報告してやる」
「頼みましたよー、カーシャ先生はいつもテキトーなんですからー」
「わかった、わかった。シッシ」
虫でも払うようにカーシャはマックスをあしらった。
不安そうな顔をしてマックスが出て行ってすぐ、カーシャはセツに顔を向けた。
「妾の命令を1つ聞くか、それとも金を出すか、交渉に応じようではないか」
「条件によっては学院に侵入したことを黙っていてくれると?」
セツは真顔で尋ねた。
「だれが黙ってやると言った?」
「はい?」
悪意を込めてセツは聞き返した。
「黙ってやるのではない。正式な手続きを踏んで、お前をこの学院で自由に行動させてやってもいいと言っているのだ。なんなら入学手続きをしてやってもいいぞ?」
「この学院の教師と言えど、教師は教師。他国にも知れ渡る魔導の名門クラウス魔導学院に容易く入学などできるわけないではありませんか。わたくしをバカにしているのですか?」
と、横で聞いていたビビが、
「実は〜、ちょっとした特別なはからいであたし留学生扱いで編入して来たんだけど、あっさりと(のちのち知ったんだけど、やっぱり実家の力が働いてたみたいだけど)」
マジマジとセツはビビを見つめた。
「たしかに、魔族は元々魔力が強いとはいえ、あなたがこの学院に入学できるとはとても思えませんものね」
「うっ(言い返したいけど、言い返せない)」
ビビちゃんちょっぴりショック。
髪の毛をかき上げながらカーシャはウサギのマグカップを手に取った。
「ビビの編入は妾が通したわけではないが、最近ではユーリという小童[こわっぱ]を妾の力で編入させたやったぞ。ふふっ、これでもなんども屋カーシャ先生と呼ばれ、生徒たちが困ったときに最後に訪れるのは妾のもとなのだ」
「ですが、カーシャさんから個人的に条件が出されると言うことは、正式な手続きではないということですよね?」
「書類は正式だ」
裏口入学!
セツは少し考え込み、口を開いた。
「わたくしにはわたくしの学業がありますから、編入の必用ありませんが、学院を自由に歩けるようにしてもらいたいのですが?」
「キャッシュで2000ラウル。等価値であれば、他国の金でよいぞ。それとも別の条件にするか?」
条件を出されてセツはすぐにサイフから1000ラウル紙幣を2枚出した。
「これでよろしいですか?」
「うむ、ならばこれを事務局に持って行け」
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)