魔導士ルーファス(2)
外伝_恥ずかしげな林檎1
学生でもないのに、何気ない顔をしてクラウス魔導学院の廊下を歩くセツ。
「侵入するのは意外に楽でしたけれど(ルーファス様はいずこ?)」
楽と言いつつも、すでに放課後。朝からルーファスの追っかけをしたにもかかわらず。
放課後になってしまったことで、教室にいた生徒たちが溢れ出してくる。この中でルーファスが探すのは難しいだろう。見つける前に帰宅されてしまう可能性もある。
セツが目を配りながら歩いていると、ピンクのツインテールをスキップしながら近づいてきた。
鉢合わせする前に――と、セツが隠れる前に見つかってしまった。
「あーっ、セツ!」
「セツですが何か?」
「なにかじゃないよ、なんでガッコーの中にいるの!?」
「いちゃ悪いですか?」
「悪いに決まってるよぉ。そーゆーのふほーしんにゅーってゆーんだよ」
「では、そういうことで」
冷たい態度でサラッと回れ右。セツは足早にこの場を立ち去ろうとした。
が、その目に飛び込んできたルーファス。
慌ててセツは物陰に隠れた。なぜかビビを引っ張って。
「なんであたしまで隠れなきゃならないの?」
「少し黙っていてください」
「もぉ(自分勝手なんだから)」
ぷいっとそっぽを向いたビビだが、すぐに気になってセツと同じ方向を見た。
ルーファスだけなら、隠れたり、気になったりはせず、さっさと本人の前に顔を出していただろう。
なんと!
ルーファスが女の子といっしょなのだ!!
あっ……違った。オカマといっしょだった。
ルーファスとユーリがなにやら話をしている。
内容までは聞こえてこないが、怒ってるユーリにルーファスがビビっているのはわかる。
急にユーリが笑顔になった。
ルーファスがユーリになんかを渡した瞬間だ。
いったいなにを渡したのだろうか?
気になるセツ。
「今の見ましたか? ルーファス様が女の子にプレゼントを渡しましたよ、わたくし以外の女の子に」
「ルーちゃん最近あの娘[こ]と仲いいみたい」
二人ともユーリが男子だということを知らない。ちなみにルーファスも知らない。
ユーリとルーファスが別れた。
何も言わずセツはユーリを追った。ルーファスではなく、ユーリのあとを追ったのだ。
ふと、セツが横を見るとビビがいた。
「なぜついてくるのですか?」
「あたしの勝手じゃん」
「ふん」
プイッとセツはそっぽを向き、ビビもプイッとそっぽを向いた。
中庭までやって来た。
噴水の見えるベンチに座ってメモを見ているユーリの姿。
「ウソかよっ!」
突然、ユーリが大声を出して、ハッとした顔をして慌てて周りを見回した。
びっくりドッキリしたセツとビビは、噴水の周りにある彫刻のフリをして硬直した。
気を取り直した様子のユーリが再びメモを読み出したようだ。
メモにはいったい何か書かれているのか?
さらにセツとビビはユーリに接近。
気づかれないように、気づかれないように、噴水の音よりも静かに気配を消して、そ〜っと近づく。
急にユーリが立ち上がった!
慌てたセツとビビは地面に伏せた。ユーリとの距離はすぐそこ。二人はユーリがいるベンチの真後ろに伏せていた。
「ビビちゃんと仲直りしなくちゃ!」
「んっ!?」
驚いて声を出そうとしたビビの口をセツが手で押さえた。
ユーリには気づかれなかったようだ。
瞳を丸くしたビビはセツと顔を見合わせた。
「(どういうこと?)」
「(こっち見られてもわかりませんよ)」
「(仲直りって、なんかあったっけ?)」
「(ビビとこの子は仲が悪い。ということは敵の敵は味方と言いたいところだけれど、この子とルーファス様の関係も気になる。う〜ん)」
「(思い出せないぃ〜っ)」
「(悩ましいぃ〜っ)」
顔を見合わせながら、二人はう○こしてるような苦しそうな表情をした。
それを掻き消すように漂ってきた香水の匂い。
気配ゼロで空色ドレスの麗人がユーリの前に立っていた。
ユーリが瞳をキラキラさせる。
「あ、ローゼンクロイツ様」
「そうだよ、ボクはローゼンクロイツだよ(ふにふに)」
「そういう意味でお名前を呼んだのではなく……まあいいです。ところで、メルティラブでの一件のあと、ローゼンクロイツ様はどうなされたのですか?」
「なにそれ?(ふにゅ)」
がーん!
ユーリだけでなく、ビビもショック!
現場で散々な目に遭わされたビビショック!
という詳細は『マ界少年ユーリ・第2話ドリームin夢フフ』を読んでね!
魔導士ルーファスの15話ともリンクしてるよ!
慌ててユーリが話し出す。
「ええっと、あのお店で一緒にスイーツを食べながら、アタシとビビちゃんとお話したのは覚えていらっしゃいますよね?」
「……忘れた(ふあふあ)」
ユーリちゃんショック!
「あはは、そ……そうですか。え、でも、〈猫還り〉をしてお店を破壊したのは知っていますよね?」
「……らしいね(ふぅ)」
〈猫還り〉したローゼンクロイツは、その間の記憶がぷっつり途切れる。酒飲んで、暴れて、覚えてないパターンと同じだ。
「キミたちが外に出されたあと、ヤツの秘書が現れて事態を収拾したらしいよ。お店もヤツがお金を出して立て直すらしい……ヤツに借りを作るなんて苦笑(ふっ)」
本当に嫌そうな顔をしてローゼンクロイツは口元を歪めた。
慌ててユーリは話を逸らそうとする。
「ところで、こんなところでなにをなさっていたのですか? まさか、アタシを見つけてわざわざ声を掛けに来てくださったとか?」
「……迷った(ふあふあ)」
「はい?」
「家に帰りたいのに学院から出られない(ふぅ)」
「……あはは、迷子になられていたのですね。だったら、アタシが送りましょうか?」
「別にいいよ、明日も授業あるから(ふあふあ)」
「……あはは、そうですよね。明日も授業ありますもんね!」
ローゼンクロイツはふあふあ歩き出した。
そんな後ろ姿を見ながらユーリは誓う。
「もうアタシは止めません。貴方は貴方の信じる我が道を突き進んでください」
そして、ユーリもこの場から駆け出していった。
ひらり♪
メモが地面に落ちた。ユーリの落とし物だ。
緊張を解いたセツは息を吐いてメモを拾い上げた。
「いつ見つかるのか冷や冷やしました」
同じくドッと息を吐いたビビ。
「ふぅ。でもローゼンには見つかってた気がするけど(チラ見された気がするし)」
「ところで、あのローゼンクロイツとかいうひとは、本当に男なのですよね?」
「うん、ルーちゃんの幼なじみの男の子」
「あんな格好をしているということは、恋愛対象はやはり殿方……なのでは」
「う〜ん、ローゼンって恋愛とかそういうのないと思うけど。ひとを好きになるってあるのかぁ(でも……ローゼンも人並みに恋とかしたら)」
このとき、ビビとセツの頭の中には同じカップリングが浮かんでいた。
ビビが髪の毛をかき乱す。
「うわぁ〜っ、ないな〜い!」
「わたくしはアリかと。ローゼンクロイツさんに恋愛感情がなければの話ですが」
「BL好きなの?」
「女装っ娘[こ]との絡みはBLなのでしょうか?」
「あたしに聞かないでよ!」
ビビは顔を真っ赤に染めた。
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)