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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(2)

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「卒業試験が済んだら返しますので問題ありません。少し借りるだけですから」
「それでもダメな気がするんだけど……」
「ここでカーシャさんの手に渡っていいと思うのですか? わたくしたちはこのペンダントを一時的に保護するのです」
「まあ、そう……なの?(カーシャが手に入れたら、妾の物は妾の物だし。僕たちが借りれば、ちゃんとオル&ロスに返してあげられるしなぁ)」
「そうと決まれば退散です!」
「決まってはないから」
 決まってなくてもルーファスに主導権はない。
 セツに引きずられて一目散にこの場をあとにしたルーファスだった。

 良質なホワイトムーンを手に入れて、ニコニコ顔のセツ。お祝いと称してルーファスの家に上がり込んでキッチンを占拠、料理の下ごしらえをしていた。
「嗚呼、これが新婚というものなのですね(あ〜ん、なんて言っちゃって、もぐもぐ美味しいよセツ。でもセツのほうが美味しいけどね、ガバッ、きゃあルーファス様ぁん……なんて)」
 海コースでバージンロードも歩きましたからね。次は新婚生活になるのは当たり前。
 美味しそうな匂いがリビングまで漂ってきた。
「僕も料理しないし、リファリス姉さんもダメだからなぁ。手料理とか久しぶりかもな」
 なんだかルーファスもうれしそう。
 そこに!
「へっぽこはいるかー!」
 玄関をぶち破って目の座ったカーシャが乗り込んできた。
「ひっく……ううっ……飲み過ぎた」
 少し赤ら顔のカーシャ。
 足下がおぼつかないカーシャを慌ててルーファスが支えた。
「カーシャ大丈夫?」
「久しぶりに飲み過ぎた……体中が酒だ……ううっ、気持ち悪い」
「カーシャが酔うなんて珍しいんじゃない?」
「妾は酔っちゃいけないとでも……ひっく、ゆーのか!」
 キッチンからセツがやって来た。
「お酒臭い。いい歳をした女がはしたない(しかもルーファス様にべたべたくっついて!)」
 カーシャはルーファスの胸に顔を埋めた。
「ううっ……だって、だって妾の大事なペンダントが……絶賛行方不明中なのだ」
 鼻をすする音。
 まさかカーシャが泣いている!?
「うそぴょ〜ん、泣いてないぴょ〜ん」
 酔っていた。
 フラフラ歩いたカーシャはソファに大股を開いてドスンと腰掛けた。
「まあ聞け、あのペンダントはな……妾の思い出の品なのだ」
 軽蔑の眼差しを向けていたセツが少し驚いた表情に変わった。
「(ただのジャイアニズムではなかったということ?)あれは本当にカーシャさんの所有物だったということですか、少なくとも過去に?」
「だ〜か〜ら〜、妾の物だとさんざんゆーただろーがー。大事な物ではあったんだがな、かくかくしかじかで質屋に預けて置いたら、流れてしまって……そのまま売られて行方知れずに」
 つまり借金が返せなかったからだと。
 セツは溜息をついた。
「大事な物だというから、感動話にでも展開するのかと思いましたら、質屋にお金を貸して返せず大事な物を失うろくでもないひとの話ではありませんか。ただただ呆れるだけです」
 セツはカーシャに近づいた。
「座るならしっかり座ってください、パンツ見えてますよ(ウサギ柄の)」
 そう言いながらセツはカーシャの体を起こした。
 ルーファスが目を丸くする。
 その瞬間にルーファスは見逃さなかった。
 セツがあのペンダントをカーシャのポケットに忍ばせたのを――。
 何気ない顔をしてセツがキッチンに歩き出す。
「水持って来ます」
 そのあとをルーファスが追った。
「セツ」
「なんですかルーファス様?」
 ルーファスはカーシャをチラ見してから、声を潜めてセツに耳打ちする。
「いいの?」
「なにがですか?」
「ペンダント」
「見ていらっしゃったんですか。いいのですよ、ホワイトムーンは世界に1つではないのですから。だってあの方、普段はあんなにも深さ酒なさないんでしょう?」
「かなりお酒に強いひとだから」
「なら、どんな思い出なのか野暮なことは聞きません」
「でもさ、借りるって話だったのに、これじゃあマズイよ」
「もぉ、ルーファス様ったら野暮ですよ。あの双子にはお詫びの品でもわたくしのほうから匿名で送って起きますから心配なさらずに」
 リビングのほうから叫び声が聞こえた。
「なぬーっ!?」
 ルーファスとセツが振り返った。
 もうペンダントを見つけたようだ。
「ナイス妾。いつの間にか小僧どもから奪い返していたのか……記憶にないが、ふふっ」
 カーシャが笑った。
 いつも妖しげな笑みしか浮かべないカーシャが、このときは冬から春が来たような微笑みを浮かべていた。
 ――ペンダントを眺めながら。
「へっぽこ祝い酒もってこ〜い!」
 やっぱりカーシャはカーシャだったりする。

 第15話_白い月が微笑むとき おしまい