魔導士ルーファス(2)
「間違い、今の間違いだから! それにクイズはまだはじまってないし!」
《それではルールを説明します》
ルーファスを無視して天の声がルール説明を続ける。
《これから3問が出題されます。1問正解するごとに、次に振るダイスに1マスプラスされます。逆に不正解をしてしまうと、1マスマイナスになります。それでは第1問!》
「ちょっ!」
ルーファスが口を挟むがクイズは止まらない。
《1+1=》
ポン!
ルーファスがボタンを押した。
「2!」
《――ですが、アステア王国の現国王の名前をフルネームで答えなさい》
ルーファスが身を乗り出す!
「引っかけ!? しかも、前振りぜんぜん関係ないって!」
ブッブーッ!
《不正解です。原点1マス。計2マス原点です》
1問目にして2点マイナス。残るは2問。
セツは冷静な顔をしている。
「ルーファス様、落ち着いてください。2問正解すれば差し引きゼロです」
天の声はクイズを続ける。
《第2問! 1+1=2ですが、トビリアーノ国立美術館にこの秋やってくる『素っ転んだ貴婦人』の作者は?》
ポン!
思わずルーファスはボタンを押してしまった。
「知るか! なにその変な題名、間違ってボタン押しちゃったじゃないか!」
ピンポーン!
《正解です。加点1マス。計1マス原点です》
まさかの正解。
きょとんとするルーファス。
「どうして正解?」
「あの有名な絵画『素っ転んだ貴婦人』の作者はシルカです。さすがルーファス様!」
「あ……あぁ(なんかバカにされてる気がする)」
そして、ついに最終問題!
《第3問! 1+1=2ですが》
そーですね!
《秋の大還元祭実施中のトリプルスターの提供でお送りします》
コマーシャル!?
《トリプルスターのトップダンサーの名前は――アイーシャですが、彼女の好物と言えば?》
カチ、カチ、カチ、カチ……時計の刻む音がする。
セツがルーファスを顔を見つめる。
「わかりますかルーファス様?」
「あんなお店行ったことないしわからないよ」
「あんなとは?」
「過激な衣装を着た女の人たちのダンスを見ながらお酒を飲むお店とか聞いたけど」
「まあルーファス様、ふしだらですわ」
「だから行ったことないから!」
カチ、カチ、カチ……。
二人が話している間にも時間が過ぎる。
《あと10秒で爆発します》
天の声を聞き流したルーファスとセツ。
《あと5秒で爆発します》
天の声をわざと聞き流したルーファスとセツ。
《3、2、1――うっそでーす》
「ウソかよっ!」
思わずルーファスがツッコミを入れた。
《ウソです。制限時間はありませんし、そんなルールはありませんが、ヒマだったので》
ルーファスが尋ねる。
「もしかして、天の声さんって中の人がいるの?」
《はい、日当2000ラウルのバイトです》
王都アステアの物価では、2000ラウルあればうめぇ棒が1000本買える。
ピンポンパンポ〜ン♪
違う天の声が聞こえてきた。
《ゼッケン26が1位通過しました》
……え?
一瞬の思考停止状態に陥ったセツはすぐに復帰。
「優勝を逃したらホワイトムーンが手に入らないではないですか!」
「まあ、そういうことになるよね。天の声さん、リタイアってできないの?」
《空間の構成上、基本的にリタイアはできません。ゴールしていただくか、ふりだしに戻っていただくか、レースの終了時間まで待っていただくか、とマニュアルには書いてあります》
この空間に新たな訪問者が現れた。
「終了など待っていられるか」
冷気をまとったカーシャ。傍らにいるビビは青い顔をして瀕死状態だ。
《新たな解答者がこの空間を訪れたので、追加ルールを説明します》
「ルールは壊すためにある(ふふっ、デストロイヤー)」
カーシャが構えた。周りに発生するマナフレア。
次になにが起こるのかは予想できる。
解答席にルーファスは身を隠した。
冷たい瞳。
「マギ・アイスニードル!」
鋭い氷柱が目に見えない壁に当たった。
空間に蜘蛛の巣のようなヒビが走る。
ガラスが木端微塵に吹き飛ぶように、世界が――魔法で構築された空間が崩壊する。
原色が渦を巻く世界。
眩暈[めまい]がする。
アメーバのようなモノが7つの眼を光らせ、吸盤のような牙を剥く。
ねじれた顔のカーシャが叫ぶ。
「○×□□△▽×××!」
聞こえるのは奇怪な音。
吸いこまれる。
スパゲティほどしかない穴に、ルーファスたちは吸いこまれた。
そして――。
ドス!
地上に落下した4人。
サンドイッチ状に重なった一番下はもちろんルーファス。一番上には堂々と立つカーシャの姿があった。
「……ううっ……重い」
「ふむ、どうにか亜空間から抜け出せな」
冷静なカーシャ。
立ち上がったセツは憤怒しながらカーシャに掴みかかった。
「あなた自分のやったことがわかっいるのですか! 一歩間違えたら死んでるところですよ!」
「死ぬくらいならいいがな、ふふっ」
妖しくカーシャは笑った。
で、ここはいったいどこ?
大きめの表彰台の上。
ルーファスは赤と青の双子と目が合った。
「「オマエら、優勝はオレたちだぞ!」」
見事なユニゾン。
優勝?
ということは、オル&ロスがレースの勝者ということか?
たしかゼッケン26が1位だったはず。
セツが声を上げる。
「あの赤髪が持っているのは優勝賞品のペンダントです!」
ゼッケンの番号も26だった。
そうとわかれば、カーシャが動く。
「そのペンダントは妾の物だ、返してもらうぞ」
オル&ロスが顔を見合わせる。
「あんなこと言ってるぜ、どうするロス?」
「これはオレたちのもんだぜ、正当防衛ってことでやっちまおうぜオル!」
オル&ロスは左右に分かれて、カーシャに殴りかかってきた。
マナフレアがカーシャの周りに集まる。
目を剥くオル&ロス。
「市街での攻撃魔法は原則禁止だろうがッ!」
「やっぱイカれてやがるぜこのセンコー!」
カーシャが微笑む。
「手加減はしてやる、ウォータ!」
水の塊がオル&ロスを呑み込む。
呼吸が出来ない!
青い魔導士ロスが水を操る。
「ごぼっ(クソ)ごぼぼっ(ババア)!」
二人を呑み込んでいた水が渦を巻いて、ヘビのようになりカーシャに襲い掛かった!
「フリーズ!」
水のヘビは一瞬にして氷の彫刻に。
体を濡らしていたオル&ロスの体も表面が凍り付いてしまった。
赤い魔導士オルが魔力を溜める。
「よくもやりやがったな!」
蒸気が立ちこめる。
魔力を熱エネルギーに変換して、体表面の氷を溶かす。
「これでは前が見えんな、トルネード!」
カーシャは風を操り竜巻を発生させて蒸気を舞い上がらせた。
舞い上がったのは蒸気だけではない。オル&ロスも天高く舞い上がった。
そして、空からルーファスの足下に何かが降ってきた。
それを拾い上げたルーファス。
「これって……」
セツが顔を寄せてきた。
「優勝賞品のペンダントです! この騒ぎに乗じて持ち逃げしてしまいましょう」
「そんなの泥棒じゃないか、ダメだよ」
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)