魔導士ルーファス(2)
白い月が微笑むとき4
ザッバーン!
いきなりの着水。
魔導衣が海水を吸いこんで、いきなり溺れかかるルーファス。
「ぶへっ……うっぷ……死ぬ……」
必死に藻掻いてルーファスは海に浮かぶ人工の浮島に這い上がった。
海藻まみれなりながらルーファスが顔を上げると、そこにはスリットから覗く生足が!
「そのまま覗いたら、わかってるなルーファス?」
カーシャが冷たい視線でルーファスを見下していた。
「わかってます、絶対にパンツなんか見ません!」
「はっきり言うな、はっきり!」
カーシャキック!
ルーファスの顔面にカーシャの蹴りが入り、再びルーファスは海の藻屑に。
「ルーちゃんのことは忘れないから! ぐすん」
大粒の涙を流してビビが迫真の演技。
そして、ビビは一瞬にしてケロッとした顔になった。
「カーシャさんどうするの?」
「浮きに立てられた旗の目印に従うなら、ここをまっすぐだが」
カーシャは何もない海を指差した。いや、よく見ると遠くに陸地っぽいものがある。そこまでの間は海があるだけ。
真剣な目をして海を眺めるカーシャが、いきなり噴いた。
「ぶふぉっ!」
遅れて海を上がってきたセツを見て。
「酷い目に遭ってしまいました。海水を吸ってしまって、これでは機動力に問題が……あっ、あなたたち」
顔を向けられたカーシャとビビは瞬時に目を反らせた。
瞳は静かなのに、口元が引き攣るカーシャ。
「(ぷぷっ……こいつ自分で気づいてないのか?)」
ビビは腹痛を起こしたように腹を押さえてうずくまった。
「(なんで顔黄色いの!?)あはっ(だめっ、笑っちゃう)ぷっ」
周りの変な空気を察してセツは不機嫌そうな顔をした。
「どうしたのですか、お二人とも?」
カーシャは真顔だが口元を引き攣らせながら、ビシッと手のひらをセツに向けた。
「いや、なんでもない!(ぷっ)」
それにビビも続く。
「あはは……なんでも……なはっ……ないから!(ウケる!)」
海に蹴落とされたルーファスも再び浮島に戻ってきた。
セツがルーファスに駆け寄る。
「大丈夫ですかルーファス様!」
「だ、だいじょうぶですよセツさん」
平静を装い何故か敬語のルーファス。もちろん顔は伏せてセツは見ない。
が、見てはイケナイもの系のモノは、見たくなってしまうのが心情。
ルーファスはチラッとセツを見た。
「ぶはははははっ!」
抱腹絶倒。
ルーファスは膝から崩れ落ち、床を叩いて涙を流した。
黄色かったセツの顔が、まだら模様になっていた。
どうやら水性だったらしい。
ビビは持っていたハンカチを顔を見ずにセツに差し出す。
「どんまい♪」
「はい? なんですかこのハンカチは?」
「気にしないで受け取って、ぷっ」
女の友情さ!
カーシャは何事もないように、セツの存在はなかったことにしたようだ。
「さて、では先に進むとしよう」
絶対にセツのほうをチラリとも見ない。
そして、カーシャは構えた。
辺りの気温が下がり、カーシャの周りにマナフレアが浮かんだ。
ルーファスがいち早く危険を感知した。
「伏せて!」
だが、ビビとセツは反応できなかった。
「メギ・フリーズ!」
カーシャが海に指先を浸けた瞬間、そこは氷河時代になった。
瞬く間に凍り付く海。
波がその形を残したまま、飛び跳ねた魚が氷の彫刻と化し、浮島からその先に見える目的地まで、約500メートルの歩道ができた。
セツはカーシャの実力を目の当たりにして感嘆を漏らさずにはいられない。
「すごい……これが魔導の最高峰、クラウス魔導学院の教師の実力」
「妾はその中でもさらに特別……ぷっ」
一瞬、カーシャはセツの顔を見てしまって、すぐに顔を氷の道に戻した。
「行くぞ!」
何事もなかったようにカーシャは優雅足取りで氷の道を歩き出す。
すぐにビビが着いていく。
「カーシャさんってやっぱすご〜い」
「当たり前だ(まあ、実際はこの空間が魔導でつくられた人工空間ということもあって、普段よりも魔力を集めやすいというのもあるがな。そのことはこいつらには教えてやらんが)」
先に進むカーシャたちに遅れて、セツもルーファスを引っ張って進もうとする。
「わたくしたちも参りましょう!」
「……う、うん」
ルーファスはセツの顔を見ない。
「(ルーファス様が冷たい。先ほどからわたくしの顔をまったく見てくれない。まさかルーファス様……)浮気ですか!」
「は?」
よくわからないが飛躍しすぎだ。
「わたくし以外の女に目移りしているのですね、そうなのですね!」
「はぁ?」
「でもいいのです。たとえそうだとしても、そんなことではくじけたりしませんから」
「はぁ(独りで妄想して突っ走りし過ぎだよ)」
「さあ、このバージンロードを進めば、その先に待っているのは結婚!」
「はぁ!?」
話についていけないルーファスをセツが強引に引っ張って走り出す!
力強く地面を蹴るセツ。
ピキッ。
バキッ!
なにか不穏な音が聞こえた。
ルーファスが振り返る。
「ぎゃーっ、氷が割れてる!」
氷が割れて後ろから海が迫ってくる。
立ち止まったカーシャ。その横をセツに引っ張られながらルーファスが通り過ぎる。
ビビがカーシャの腕をつかんだ。
「早く逃げないと!」
「マギ・エアプッレシャー!」
カーシャが圧縮した空気をルーファスの背中に放った。
「ぎゃああああ!」
ぶっ飛ぶルーファス。
セツは慌ててルーファスにしがみついた。
「嗚呼、ルーファス様(しあわせ)」
空かさずカーシャはさらに魔法を放つ。
「エナジーチェーン!」
手から放たれた鎖がルーファスの足に絡みついた。
カーシャの足下が海に沈む。
同時にカーシャは宙に浮いていた。
ルーファスをハンマー投げにして目的地まで引っ張らせようとしたのだ。
慌ててビビはカーシャに抱きついた。
「ううっ(おっぱいデカイ)」
ビビ涙目。
放物線を描いていたルーファスは浮島に落下。
「ぐへっ!」
この場合、海に落下したほうがマシだった。
そして、ルーファスの上に腰掛けるセツ。
「ルーファス様、身をていしてわたくしを庇ってくれたのですね」
本人がそう思ってるなら、それでいいと思います!
負傷したルーファス放置で、カーシャ&ビビペアはサイコロを振って先に進んでしまった。
「ルーファス様、わたくしたちも急ぎましょう!(優勝して賞品さえ手に入れてしまえば、カーシャになにを言われようと、渡さなければいい話)」
セツがサイコロを振る。
――8!
コマを進めたルーファスとセツ。
マップを確認すると、そこはクイズのマスになっていた。
気づけば解答席に立たされ、手元には押しボタン。そして、頭には謎のシルクハットが被されていた。
ボタンがあれば押したくなる!
ルーファスは取りあえずボタンを押した。
ポン♪
シルクハットからパーの形をした札が飛び出した。回答者を現す挙手マークだろう。
ブッブーッ!
明かな不正解の音。
どこからともなく声が聞こえてくる。
《不正解です。原点1マス》
いきなりの原点!
慌てるルーファス。
作品名:魔導士ルーファス(2) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)